坂ノ下を一歩出た途端に、肌を刺す冷気が体温を一気に奪ってゆく。
口々に寒いといいながら、私たちはついさっき買った茶色い紙袋を開けた。

「やっぱ冬は肉まんに限るわー」

肩をすぼめた龍がそんなことを言いながら、袋の中から中華まんを取り出す。龍に同意したノヤも、素早く紙袋に手を突っ込んだ。
私も二人に少し遅れて肉まんを取り出す。冷えた指先に肉まんの熱は凶器だ。私が思わず「あつっ」と口走ると、龍とノヤがけらけらと笑った。私も照れ隠しに、少し笑う。
龍が肉まんを頬張りながら「気ィつけろよ名前ー」と言ってくれた。私はそれにこくんと頷いてから、手の中におさめた肉まんに視線を戻した。

あつあつの肉まんを割ると、ほんのり醤油のかおりを帯びた白い湯気が立ち上る。
私がふうふうと息を吹きかけて冷ましているうちにひとつめをぺろりと平らげてしまった二人は、茶色い紙袋からふたつめの肉まんを取り出して勢いよくかぶりついた。

「よく食べるねぇ」

感心したようにそう言うと、ノヤは「おう!成長期だからな!」と豪語した。そうだな、ノヤの成長期はこれからだもんな。私がちょっとしんみりした顔でうんうんと頷くと、龍がそんな私をみてげらげらと笑った。ニット帽のてっぺんについているぽんぽんが左右に揺れる。湯気の向こうの龍の豪快な笑顔を見ていると、なんだか私まで楽しい気持ちになってきて、釣られるようにくすくすと笑った。
そんな私たちを見たノヤが「なんだァ!なんかおかしいかコラ!」と息を巻いた。帽子を被る龍と違って剥き出しの耳がちょっと赤くなっている。私は慌てて「なにもおかしくないよ」と言って、右手に持っていた半分に割った肉まんを差し出した。

「これ食べて、でっかくなってください、烏野の守護神!」

安っぽいおだての言葉だったが、ノヤはこれで充分満足してくれたらしい。守護神とか言われてもうれしくねーんだからな、とお決まりのような台詞をはいて、私の持っている肉まんにぱくっとかじりついた。体は小さいくせにでっかい口で、私の肉まんを半分ぺろりと食べてしまったノヤは、「うまかったぞ名前!」と言ってにかっと笑った。

「お、おう……」

一気に半分になってしまった肉まんに、気落ちを隠せない。やや歯切れ悪くノヤにそう返してから私は、左手に残った半分を食べようと口を開けたのだが。
大きく口を開けた状態で、こちらを見詰める龍と目が合った。もともと目つきのよくない双眸をかっと開いて、口元にだけ笑みを張り付けている。龍はなにも言わないが、その眼差しがなによりも饒舌に彼の主張を物語っていた。ノヤっさんには肉まんあげて、俺にはくれないのかな?
私はあんぐり開けていた口を閉じて、左手に残された肉まんと、龍の顔を見比べる。確かにね。今日の練習の龍は特にキレッキレだったもんね。

「もってけ!次期エース!」

左手を龍の方に突き出すと、肉まんは一瞬で跡形もなく消えた。がくりと肩を落とした私の背中を、ノヤが励ますようにばしっと叩く。いや、この事態を招いた責任の一端はノヤにもあるんだぞ。そう思いながら彼を振り返ると、そこには屈託のない笑顔があった。
そんなノヤと、満足そうな顔で私の肉まんをもぐもぐと咀嚼する龍を見た私は、まあいっか、と思ってちいさく溜息をついた。私の肉まんは彼らの血肉になって、これからの烏野バレー部を支えるのだ。そう思えば、二人に肉まんを奪われたことも、快く許せるってもんだ。

「まじで頼むよ、守護神とエース!」

私がそう言って二人に笑いかけると、彼らは「おう!」「任せとけ!」と言って、男らしく胸を張った。まったく、頼もしいんだから。

私は空っぽになってしまった両手を、暖をとるようにすり合わせる。どうしよう、肉まんもうひとつ買ってこようかな。そんなことを考えながら既に暗い空を見上げていると、
不意に、目の前に半分に割られた肉まんがふたつ、現れた。きょとん、としながら肉まんと、それを差し出す二本の腕の先にある二人の顔を見比べた。ぼやっとしている私に、二人はさらにずいっと肉まんを近付ける。私が思わず「え?」と疑問の声を漏らすと、ノヤが短く「食え!」と言って私の口に肉まんを押し付けた。

「うぶっ」

突然押し付られた肉まんに驚いた私の唇から奇妙な音が漏れる。それにぶはっと吹き出した龍は、笑いながらも「おら」と半分の肉まんをこちらに差し出し続ける。
私はおずおずと二人から半分ずつの肉まんを受け取った。指先にじんわりとした温かさが広がる。

「お前も頼むぜ、マネージャー!」

……眩しく笑う二人に負けないように、私も頑張らなくちゃだな。
私は「うん、任せて!」と高らかに宣言してから、二人に貰った肉まんを頬張った。やっぱり冬は肉まんに限るね。



「指先の誇り」
匿名の方へ / 真冬の話、友情系
(リクエストありがとうございました!)




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