白いボールが名前の頭上をぽーんと飛んでゆく。クラスメイトの「わーごめん!」という声を笑顔で制して、名前はボールを追って駆け出した。
青空を切り裂いて飛んでいったボールは、重力に引き寄せられるように下降に転じる。さんさんと降り注ぐ太陽の光を照り返す白いグラウンドをてんてんと数回跳ねてから、大人しく砂の上を転がり、最後はその軌道を塞ぐように立っていた男子生徒のスニーカーにぶつかって、静止した。
右足に感じた軽い感触の正体を確かめるように視線を落とした祐希は、足元に転がっていた白いバレーボールを、漠然と拾いあげる。
と同時に、自分の名前を呼ぶ高らかな声が、グラウンドに響いた。
「あさばー!パース!」
名前を呼ばれたことに反応して、声のした方に顔を向ける。そこには、祐希と同じく体操服を着た苗字名前がいて、祐希に向かって大きく両手を振っていた。彼女の肩の向こうに、祐希の手の中にあるのと同じ白いボールを跳ね上げてパスの練習をしているらしい女子生徒たちが小さく見える。ぬるい風に乗って、彼女たちの歓声が静かに佇む祐希のもとに微かに届いたが、そんなけだるい空気を吹き飛ばすような名前の爽快な声が、再び祐希を呼んだ。
「浅羽ってばー!」
真っ白な体操服の裾がはためく。ちょこっとだけ見えた彼女の白い脇腹を見なかったことにしながら、祐希は右肩を引き、ボールを投げた。
それは再び名前の頭上をぽーんと飛んでゆく。青空も、祐希を呼ぶ名前の声も蒸し暑い真夏の空気も、何もかもを切り裂いて飛んだボールは、そのまま女子が体育をしているグラウンドの東の一角へ吸い込まれるように返っていった。
ぽかん、と口を開けてボールの行方を目で追っていた名前が、ぱっと祐希の方を振り返る。そして、「もー!」と抗議するような声を上げた彼女は、でも柔らかく笑っていた。グラウンドの照り返しが、彼女の体操服と優しい眦をぼかすように輝かせる。
「ありがとね!」
再び大きく手を振った名前は、そのままぱっと踵を返して駆け出した。熱っぽい校庭の空気に、彼女の髪がふわりと舞う。うなじに浮かんだ汗の粒が小さく光ったのは刹那、小さな背中はそのまま真っ直ぐに、グラウンドの照り返しの中に消えてゆく。
それを最後まで見送った祐希は、のそりと体を動かして、サッカーボールを追うクラスメイトたちに視線を戻した。
砂煙りをあげて駆け回る男子生徒たちを遠巻きに見ながら、祐希はボールを追って駆けてゆく彼女の背中を思い出す。光の中に消えてゆく白い背中と、自分の名前を呼んだ声。
先程バレーボールのぶつかった祐希の右足が、一歩前に出る。こつん、とボールが当たった時の感触はもう失われていたけれど、なんとなく、足を押されたような気がしたのだ。
「introduction B」
コト子さまへ / クラスの女の子と絡む話、季節は夏
(リクエストありがとうございました!)
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