「トリック オア トリート!」

部活を引退してから久しく聞いていなかった明るい声が背後から響く。今年もやって来た嵐のようなその掛け声に、茂庭は苦笑しながら振り向いた。
小さなジャックオランタンを下げた名前が、にこにこ笑いながらこちらに駆け寄ってくる。彼女の左手で揺れているそのランタンは、少し歪な笑顔を浮かべていた。もしかして、名前が自分で作ったんだろうか。器用でバイタリティあふれる彼女なら、それくらいのことはやりかねない。去年も、彼女にはこっぴどくやられたし。

「さあ、茂庭どうする?」

不敵な笑みを浮かべる名前に、茂庭は「ちょっと待ってろ」と言って、鞄の中から用意していた菓子を取り出す。コンビニで売っている普通の箱菓子。練習上がりにみんなでコンビニに寄った時に、彼女がよく買っていたそれ。

「ほら、トリート」
「ありがとー!今年はさすがに学んだか」

嬉々として受け取った名前に、茂庭は「まあな」と苦笑を返す。
去年はハロウィンなんて全く意識していなかった茂庭は、菓子を持っていなかった代わりに悪戯をされたのだった。練習が終わってさあ着替えるかと思ったら、自分の鞄の脇には替えのTシャツでなはくメイド服が置かれてたっけ。

「あれも今ではいい思い出でしょ?」

にこにこ笑いながら茂庭からせしめた菓子を袋の中に収めた名前に、茂庭は「まさか!」と反論した。あのあと主に二口や鎌先の悪ノリのせいで酷い目に合ったことは、きっと永遠に忘れられないだろう(あいつら普段は仲悪いくせに、ああいう時だけ協合しやがって)。

「あ、そう?茂庭のメイド写真結構いいセンいってるよ、永久保存だよ」
「……頼むから消してくれよ」

がっくりと項垂れてそう言った茂庭を、名前は「気が向いたらねー」と笑い飛ばした。
……こいつ、絶対に消さないな。




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