邪魔だ。まじであいつら、すこぶる邪魔だ。
愛しの潔子さんにトリックオアトリートをしに行きたい私の前に立ちはだかる、大小二枚の壁。
「潔子さん!今日が何の日か知ってますか!」
「潔子さん!お菓子はいいんでイタズラしていただけませんか!」
うぐぐ、と呻りながら第二体育館の入り口から田中と西谷を睨み付けていると、「また来たんですか?」という呆れたような声がはるか頭上から降ってきた。見上げるほどの長身に、色素の薄い金の髪。
「あ、月下くん」
「月島です」
覚える気のない名前を適当に言って訂正されるというお馴染みのやりとりを今日も交わした後、いつもならさっさと体育館に入ってゆく月……月下、ちがう月島くんが、今日は私の背後に立ったまま、潔子さんにぎゃんぎゃん絡んでいってガン無視されている二人を眺めていた。
「苗字さんはなんで田中さんたちにまじらないんです?」
「だってあれにまじったら潔子さんにうざがられてしまう……」
「え?もしかして、自分うざがられてないつもりなんですか?」
「え!?潔子さん私のことうざいって言ってた!?」
愛しの潔子さんから視線を外して、慌てて月島くんに向き直る。はるか上にある彼の瞳が、眼鏡の奥で意地悪く光っているのを見た私は、思わずはっと息を飲んだ。
こいつ、私のことをからかって楽しんでいる……?
「なーんて。冗談ですよー」
にこり、と完璧に微笑んだ月島くんは、そのまま「じゃ、うざがられないようにがんばってくださいねー」と他人事のように言いながら体育館に入って行った。
その瞬間、主将の「集合!」という声が響き、潔子さんたちは部活を始めてしまった。
「!!」
なんということだ!月島くんと話して時間を浪費してしまったせいで、潔子さんに話しかけにいく時間が無くなってしまった!
策士め……と思いながら見つめたのっぽの背中は、心なしか楽しそうに見えた。ちくしょう。
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