!エロくもグロくもないが、ヒロインがドMでおかしい


「ヒル魔ー!」

よく通るお馴染みの声に、ヒル魔さんの顔がすこぶる嫌そうに歪む。この人にこんな顔をさせることが出来る人は、きっとこの人を除いて他にはいないだろう。

「お菓子あげるからイタズラして!」

ヒル魔さんのよく噛んでいる無糖ガムがぎっしり詰まったコンビニの袋を下げた苗字さんが、そう言いながらヒル魔さんに突進した。抱き着いたとかじゃない、あれはもう突進だ。ヒル魔さんは苗字さんの突進をひらりとかわすと、持っていたマシンガンの銃口を苗字さんの額に突き付けた。現代日本において、銃器を向けられて狼狽えない人間はそう多くないように思う。相手を確実に牽制することのできるはずのそれは、しかし苗字さんの前では全く無意味なようで。せっかくのマシンガンも、せいぜいつっかえ棒くらいの役割しか果たせていない。
マシンガンの銃口に額をぶつけた苗字さんは、とても痛がっているとは思えないような声色で「いたい!」と言ってから、獣のような目でヒル魔さんを見つめる。

「撃つ? ついにこれ撃っちゃう? うひょー! いいよ! どんとこい!!」

苛立ちと嫌悪と呆れの入り混じった複雑な表情を浮かべたヒル魔さんは、鋭い声で「おい糞チビ!」と僕を呼んだ。「はヒィ!」と返事をすると、ヒル魔さんは苗字さんに銃を突きつけたまま視線だけで僕を見て、「部室行ってケロべロス用の鎖取ってこい」と僕に命令した。

「なによヒル魔! またそうやって縛って放置? それも悪くないけど、どうせなら撃ちなさいよ!」
「うっせーこ・の糞ドM! テメーみてえな虫ケラにくれてやる弾はねえんだよ!」
「虫ケラ! いいね、もっと言ってください!」
「……糞チビさっさと行け!」

舌打ちしたヒル魔さんに急かされるまま、僕は部室に向かって駆け出した。そんな僕を、ふたりのやりとりが追いかけてくる。

「無視? せっかくガム買い占めてきたのに、こんな仕打ちってないよ……」
「あぁ? ドMなら興奮してろ」
「もちろん興奮はしてます!」

……もうすぐ練習始まるし、苗字さんには悪いけど、はやく鎖取って来よう。




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