クリスマスソングの流れる商店街を抜けて、無人街へ続く人気のない道を進んでゆく。
静かなメインストリートに響くのは、ふたり分の足音だけ。今夜の夕食の材料が入ったスーパー袋を持って、白いマントを翻して歩くサイタマと、私。
視線だけで、彼を見遣る。サイタマはいつも通りの何でもないような表情を浮かべてはいるけれど、私とこの街を歩く時の彼が実は周囲の気配に気を配ってくれていることを、私は知っている。
彼のことを想うと、自然と持ちあがってしまう口角。今サイタマがこちらを向いたら、にやける私を不思議に思うかもしれない。私は頬に力を込めて、にやけそうになるのをこらえる。
しばしの格闘の後、私の理性は勝利した。ため息交じりの息をついて、頬の緊張を緩める。
私の唇からもれた白い息が、冷たいZ市の空気に溶けながら空に昇ってゆく。なんとなくそれを目で追った私は、その向こう、はるか頭上に広がる灰色の空を見て、ほんの少しだけ眉間に皺を寄せた。
せっかくの聖夜なのに、星空が見えないのはなんだか寂しい。でも、もしかしたら、夜が深くなるころには聖夜に似合いの雪が降ってくるかもしれない。
そんなクリスマス特有の期待と寂しさの入り混じった複雑な感情でもって重たい空を見上げていると、すぐ隣を歩く彼がそんな私に気付いて、つられるように視線を持ち上げてこう言った。
「あー帰ったら洗濯物取り込まないとなあ」
雨が降ったらたまらない、というような、なんとも普段通りの口調でそう言った彼。その口元から立ち上った白い息が、先ほどの私のため息と同じように灰色の空に昇ってゆく。
星だとか、雪だとか、そんなクリスマスらしい発想を全く持ち合わせていないサイタマの気だるそうな横顔に、私は思わず笑ってしまった。クリスマスだからといって背伸びをしたり、特別なことをしたりはしない。でもそれは同時に、とても彼らしい。彼といればこんな平凡で愛しい毎日が、いつまでも続いていくんだと、本気で思えるから不思議だ。
「そうだね、雨降ったら困るもんね」
「な」
たぶん、私たちのクリスマスに雪は降らない。星もきっとまたたかない。
彼の持つスーパー袋には、いつもとおんなじ白菜としらたきと、それから40%オフになっていた豚肉が入っている。チキンやケーキはとてもじゃないけど買えやしないし、サンタクロースを意識して選んだ赤いワンピースにも、きっと彼は気付かない。
でも、それがいい。私たちには、恋を延命させるためのロマンスは必要ない。私とあなたがいれば、それで充分。
「ねえ、雨降る前に早く帰ろ?」
私がそう言って彼にむかって右手を差し出すと、彼は少し困ったように頭をかいてから、空いていた左手でその手を取ってくれた。
彼の手を守る赤い手袋は、いつの間にか外されていた。彼の手の大きさや、あたたかさ、それから掌にできているタコの硬さをはっきりと感じながら、私はその手を握り返す。
ほらね。これで充分。
思わずこぼれたため息が、また空へ昇っていって、ぶ厚い雲の一部になる。私はそれをぼんやり見つめながら、彼の歩調に合わせてゆっくりと歩いた。
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