庭の梅がほころび始め、それを待っていたかのように鶯が鳴く。
春を告げるその声が聞こえたことに笑みがこぼれたのは私だけではない。縁側の向こうに見える紅い蕾を見ながら、恵もかすかに笑っていた。「やっぱり名前のとこは落ち着くわ」と言って、緑茶をすする。

アイドルになってすっかり忙しくなった今でも、たまの休みにこうして会いに来てくれる恵。随分長くなった髪、もともとかわいかった顔を彩るお化粧。都会のお洋服に身を包んではいるけれど、鶯の声に耳を傾ける横顔はあの頃と変わらない。
私はそれに微笑んでから、縁側に立つ少女に声をかけた。

「ティオちゃんも、お茶飲む? お菓子もあるよ」

庭の紅梅と同じ色の鮮やかな髪の少女は、縁側で黙ったまま庭の梅を見上げていたが、私の声に反応してぱっとこちらを振り返る。そして、はきはきとした口調でこう言った。

「ねえ、さっきの鳥はどこにいるの?」

きらきらと輝くその瞳。私はそれに見覚えがあった。うちに遊びに来て、鶯の声を聞いた幼い恵は、これと全く同じ目をしていたのだ。きっとあそこにいるに違いないわと言って、危ないという私の制止も聞かずに庭の梅の木を躊躇うことなく登っていたっけ。

「さあ、どこにいるのかしら」

声はすれど姿は見えないその鳥の所在をぼかすようにそう言って恵を見遣る。彼女は少しだけ照れたように頬を染めて、お湯呑みを傾けた。
ほうほけきょ、と、そんな彼女を鶯が笑った。


黄鶯見完;うぐいすなく
春告鳥ともいわれる鶯が、どこからともなく鳴きはじめる季節
※「見完」は旧字がweb表示できなかったため、近い文字を充てています。




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