ほらよ、と渡されたホットココアのあたたかさが、毛糸の手袋で覆われた指先に広がってゆく。
「はじめはいいの?」
財布をしまってから私の隣に腰かけた彼にそう尋ねると、彼はごく短く「俺はいい」と言った。
私はそれに「そっか。ありがとう」と返して、プルタブを開ける前にもうしばらくココアのあたたかさを楽しむことにした。
真冬、ふたりで帰る時、ここの自動販売機ではじめにココアを買ってもらうのが、いつの間にか私と彼の暗黙の了解になっていた。部活の忙しい彼とは、毎日のように一緒にいられるわけではない。
私が彼の部活を邪魔したくないのと同じだけ、彼も忙しい部活の合間を縫って私といたいと思ってくれているのだと、思う。だから、帰り際に少しだけ、こうやって私たちは身を寄せ合って暖を取るのだ。
真冬の盛りを過ぎたと言っても、宮城の冬はまだまだ長い。それが少しだけ、嬉しい。
本当はずっとこうしていたいけれど、ココアが冷めてしまうともったいないし、なによりはじめが風邪をひいてはいけないから。私は慣れた手つきでプルタブを起こし、押し戻す。冷たい空気の中に、あまい香りを帯びた白い蒸気が立ち上る。
「いい匂いだねえ」
「おう」
急ぎすぎないように、でも遅れてしまわないように、今年も冬が過ぎてゆく。
魚上氷;うおこおりをいずる
あたたかくなってきた水の中に、魚の姿が見えはじめる季節
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