大きな欠伸を隠すことなく口を開けて、私は薄靄のたなびく中を歩いていた。
右手に下げた白く不透明なビニール袋には、眠気覚ましのつもりで訪れたコンビニで買った、欲しいのか欲しくないのかいまいちよくわからないお菓子が三つ、適当に入れられている。左手は羽織ったコートのポケットに暖を求めて突っ込まれていた。
世間は春の準備にどことなく浮き足立っているが、まだ朝日も昇らない薄闇の中では、肌を包む空気は冷たく厳しい。

私はもうひとつ、大きな欠伸をこぼす。この寒いなか折角コンビニまで行ったのに、眠気は冷めなかった。この、たなびく霞のせいかもしれない。ぼんやりけぶる視界が、夢と現実のあわいを曖昧にしている。
ふあー、と情けない声を上げた瞬間、私の正面から「お前、なにやってんだ」という聞き慣れた声が降ってきた。

「恥じらいとか持てよ」

コートのポケットに手を突っ込んだまま、眠気全開の顔で目を凝らすと、駿くんが呆れたような顔をして立っていた。淡い色のジャージを着た彼は、ロードトレーニングの最中なのだろう、その額が汗ばんでいる。
私はぼんやりと「あー、うん、」と言って、家に向かってゆっくりと歩を進める。すると駿くんは、そんな私の隣に並んで歩き出した。あれ、ランニングはいいの? と思い見上げた先の彼の横顔が、霞にぼやける。これは現実? それとも、私の夢?

「……駿くん、ほんもの?」

覚束ない声でそう尋ねると、霞の向こうの凛々しい瞳が、きょとん、と見開かれた。こんな可愛い駿くんは、なんだか久しぶりだ。やっぱりこれは、夢かもしれない。


霞始靆;かすみはじめてたなびく
遠くの景色をぼやかすように、霞がたなびきはじめる季節




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