なにやら、揺れている。
地震か? と思い目を覚ました私は、揺れているのは大地ではなく自分であることに気付いて、私の肩を揺する屈強な男にじとりとした視線を遣った。

清十郎はこたつで眠ってしまっていた私の起床を確認すると私の肩から手を離し、私の眼差しなど全く意に介していないようなきっぱりとした口調で「スイッチがおかしい」と言って、そのごつい右手を私に差し出した。

そこには、黒と白のプラスチックの残骸が乗せられていた。
まだ寝起きで判然としない頭で彼の先程の言葉を思い出す。スイッチが? おかしい?
黒い残骸の中に申し訳程度に残る白いスイッチに、馴染み深い『入』『切』の文字があるのを見た瞬間、私は即座にこたつ布団をめくってそこにある電熱器を確認した。

「……っ!!」

いつも温かそうなオレンジ色に輝いているそれは、見るも無残に沈黙してしまっていた。
ばっと顔をあげて清十郎を見遣る。彼はかつてこたつのスイッチだったものを手にしたまま、いつも通りの仏頂面で今にも泣きだしそうな私を見詰めていた。

そろそろこたつを片付けるように言っていた母親の言葉に従っておかなかったことを後悔しながら、私はとりあえず、最早役目を果たせないこたつからゆっくりと這い出ることにした。ああ、春だなあ。


蟄虫啓戸;すごもりむしとをひらく
土の中で冬眠していた虫たちが、戸をひらいて出て来る季節




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