ふぁあ、と大きな欠伸をすると、隣を歩く信史はその肩を優雅にすくめて「俺とのデートはそんなにつまらないか?」と言い、左の口角をきゅっと持ち上げた。その皮肉っぽい独特の笑みに私は「別にデートじゃないでしょ」と返して、ついっとそっぽを向く。
豊と敬太の四人で市内に映画を観に行く約束をしていた筈なのに、蓋を開けたらこの有様だ。これでまた、よからぬ噂が城岩中学を駆け抜けることだろう。
「せっかく春なんだしさ、ちょっとくらい浮かれてもいいんじゃないか?」
「年中浮かれてる信史に言われたくないし、浮かれるにしても相手は選びたいわ」
ぴしゃりとそう言って、さりげなく肩に回そうとしていた彼の腕をぺしっと叩き落とした。
信史は行き場を失った右手をズボンのポケットに突っ込んで、やれやれと言うようにわざとらしい溜息をつく。そんな彼をじとりと見遣ると、切れ長の瞳とばっちり視線が合った。
「まあいいよ、俺は名前が素直になるまで気長に待つさ」
「……で、素直になった途端にポイでしょ」
他のたくさんの女の子のように。
信史は「そんなわけないだろう?」と言ってからからと笑っていたが、私はそれを信用しなかった。「どうだかね」と言って、もう一度欠伸をするふりをする。
信史から逸れて上空に移った視線の先では、電線に仲良く並んだ二羽の雀が茶番を繰り広げる私たちのことを静かに見下ろしていた。
雀始巣;すずめはじめてすくう
春分をむかえ、雀が巣をかまえはじめる季節
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