ふわり、と頬を撫でてゆくうららかな風が、眠気を誘う。たまらず、ふあ、と大きな欠伸が出た。涙で少し滲んだ視界。目の前に広がっていた桜並木が、その輪郭をふわりとかすませる。

「あらー派手なあくびだこと」

桜色の空気に、そんな気のない声が響いた。少し滲んだ視界で目を凝らす。はらはらと舞い散る桜の下に佇んでこちらに手を振る、スーツ姿の女性。
ジェニファーだ。彼女の姿を認めた私は、彼女に向かってひらひらと手を振り返す。ゆっくりこちらに近付いてくる彼女の右手には、三色団子がしっかりと握られていた。花見にお似合いのそれを、しかし彼女は桜には視線をやることなく、次々と口に運ぶ。

花より団子とは、まさにこのこと。私は苦笑に似た笑みを浮かべて、彼女の方に歩み寄った。

「ね、ちょっとちょうだい」
「……仕方ない」

肩をちょっとすくめてから、右手をこちらに差し出すジェニファー。私は、ぱくん、とピンクに色付いた団子を口にした。春の陽気のようにほのかな甘みが、舌の上でふわりと広がる。

「ありがと」
「どうも」

ふたりでもぐもぐと口を動かしながら、並木道を歩く。
桜を見ているだけでは眠くなってしまうわびもさびもない私の頭が、お団子の甘みによってはっきりと覚醒してゆく。結局私も、花より団子だ。


桜始開;さくらはじめてひらく
春めいてゆく陽気に誘われ、桜の花が咲きはじめる季節




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