年度が替わって、私は三年生になった。だからと言って、私も、私たちも、何も変わらない。楽しいことを求めて高松市内に繰り出しては、喧嘩とネオンの光にまみれて夜を明かす。

春を予感させる空気のせいか、街を行く人はみなどこか浮かれている。つまり、カモを掴まえやすい。
竜平と充が、私が引っかけてきた男たちに暴行を加えている横で、博とヅキが男の財布や持ち物をチェックする。「あらやだ、アタリね」と言いながら倒れて動かなくなった男の懐からヴァージニア・スリムを取り出したオカマは、早速それを咥えて火を付けた。

「ヅキくさいあっち行って」

落書きだらけの壁にもたれていたボスの隣にしゃがみ込んでいた私は、風向きのせいかこちらに流れてきた煙に顔をしかめる。
ヅキは「名前チャンったら、そんな言い方ないんじゃなあい?」と分厚い唇を歪めて笑ってから、こちらに向かって煙を吐き出した。

「うーわサイアクだ、クリーニング代出せよ」
「洗ったところでどうせ取れないわよ」

煙を肺に満たしては吐き出すその行為を数度繰り返したヅキは、まだ半分ほど残っている紙巻タバコをひょいっと放って靴の先で揉み消す。
そして、私を見て、その太い眉の下の瞳をきゅっと細めて笑った。頬の筋肉が盛り上がったごつい笑みが、路地裏に流れ込んでくるネオンの光を受けて気味悪く浮かび上がる。

ヅキは、竜平と違って私がタバコを吸わないことを積極的に咎めない。
だが、こうやって私にタバコの煙を吹きかけては、その努力を嘲笑うのだ。

余裕の笑みを浮かべるヅキを睨み上げる。街の喧騒、遠くに聞こえるパトカーのサイレン。タバコ臭い春先の空気と、男を引っかけるためにばかみたいに露出した私の太もも。ああ、本当に、クソだ。春の訪れを告げる遠雷が、繁華街の向こうで鳴っている。しかしそれは雑音に阻まれて、私の耳には聞こえない。


雷乃発声;かみなりすなわちこえをはっす
遠くで雷の音が鳴りはじめる季節




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