金剛家の玄関先に着く頃に、しとしとと降っていた篠突く雨が、ふと止んだ。傘をたたんだ私は、雨を払って留金をぱちんと止める。
それから、金剛家の屋根の向こうに広がる空に視線をやった。雲の切れ間から覗く青空。そこから差し込む陽光が、雨上がりでややけぶる空に薄い光のヴェールになって揺らめいている。

綺麗だな、と感じた私が小さく息をもらした瞬間、私の背後で湿ったアスファルトを踏む鈍い足音が聞こえた。
そこに、勉強を教えてもらう約束をしていた雲水が立っているものと思い込んで振り返った私は、いかついサングラスをしたドレッドヘアの男を認め、思わず小さくないため息をついてしまった。なんだ雲水じゃないのか、という心の声が透けていたそれ。阿含の眉間に、皺が刻まれる。彼は不機嫌をあらわにした声をあげて、サングラスの奥の瞳で私を容赦なく睨み付けた。

「んなとこ突っ立ってんじゃねーよカス」
「、、、はいはい」

私は気だるくそう言って、阿含様のために道をあけて差し上げる。私の鼻の先をかすめるようにして自宅の玄関へ入っていった彼。
すれ違いざまに香ったむせ返るような香水のにおいに、私は眩暈に似た感覚を覚える。

あんた、オンナ変えた方がいいんじゃないの。と思いながら見上げた彼の表情は、光を反射して虹色に輝くサングラスのレンズの下に隠れてしまっていて、私には読み取れない。
阿含はその一瞬のきらめきと、胸の悪くなるような強い香水のにおいを残して、家の中へと消えていった。


虹始見;にじはじめてあらわる
次第に日の力が強くなり、雨の後に虹が架かりはじめる季節




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