セーラーの襟の紺色と牡丹の深紅が描く落ち着いたコントラストをファインダーに収めながら、ピントの深度を調節する。牡丹の豪奢な花弁を指先でちょいちょいと触りながら「まも姉のがよかったんじゃないの?」なんて言う鈴音の、一瞬伏した瞳を逃さないように、私はシャッターを切った。
ばしゃり、と派手な音をたてて撮れた写真を液晶画面で確認しながら、彼女のその言葉を否定する。

「ううん、鈴音じゃないとだめ」

絞りとフォーカスを再調節してから、ファインダーを覗く。さっきよりも幾分か輪郭のはっきりした世界の中で、私のラブコールに思わず大輪の牡丹から視線を上げた彼女と、レンズ越しに目が合った。ぱっちりとした上がり気味の双眸が、身じろぎひとつせずに私を見つめる。

次の瞬間、シャッターボタンにかけられていた右指は、私の意志と関係なくボタンを押し込もうとした。魅力的な表情、一瞬の陰影、その場の全てが人差指に圧力をかける。
だが私はそのプレッシャーを感じながら、指の動きを意図的に止めた。まだまだ未熟な私の腕では、どんなに上手に撮れたとしても、鈴音のこの表情を、感情のゆらぎを、きちんと切り取ることはできないように思われたのだ。半押しの状態で待機することになったカメラは、鈴音にピントを合わせたまま、役目を果たす一瞬を今か今かと待ち続ける。

「どうしてもセーラー服の女の子がよかったんだよね」

私が冗談めかしてそう言うと、鈴音は「おっさんくさーい」と言って笑った。きゅっと細められた眦に反応した私の右指は、今度はちっぽけなプライドに阻まれることなく、シャッターボタンを深く押し込んだ。


牡丹華;ぼたんはなさく
牡丹が大きな花を咲かせる季節




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