だんだんと夏めいてゆく日々に胸躍らせるのは、人間だけではない。犬も、猫も、鳥も、虫も、過ぎゆく春を顧みることなく夏に向かって進んでゆく。
そしてそれは、ミミズだって例外ではない。
ひだまり幼稚園の花壇で日向ぼっこをしていたでっぷりと大きなミミズで遊んだあの日のことを、私は唐突に思い出していた。怖いものなしだった私がミミズを摘み上げ、春が泣き、要が怒鳴り、悠太が要を更に怒らせる。そんな阿鼻叫喚の中で、祐希だけは珍しくお兄ちゃんの陰に隠れて、体をくねらす土色の生命体を恐る恐る見つめていたっけ。
「大丈夫だよ、これくらい」
へらへら笑いながらそう言った私の左手首を、しかし祐希は放さなかった。「手当してもらって。見てる方が痛いから」と言って、彼にしては大股でずんずんと廊下を進んでゆく。
初夏の太陽に踊らされてブレザーを脱ぎ捨て、シャツの腕をまくってはしゃいでいた私の右腕に走る、ちょっと大きなミミズ腫れ。
「派手なだけで痛くないんだよ」
そう言っても、祐希は私の主張を聞き入れてはくれなかった。はあ、と溜息を吐きながら、辿り着いた保健室の扉を引き開ける。
だからこの季節はいやなんだよね。彼のそんな心の声が聞こえた気がした。
蚯蚓出;みみずいずる
ミミズが地上にはい出てくるようになる季節
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