オシャレな制服の青葉城西高校にももちろん、生徒たちを縛る月並みな校則がある。女子のスカート丈はうんぬん、女子のお化粧はかんぬん。
若くてかわいい盛りの女の子は、それをうまくかわしながらきれいに自分を飾る。けれど、真面目だったり、不器用だったり、その波にうまく乗れない女の子も、いる。その中の一人が私だ。
校則ぴったりのスカート丈。綺麗に編み込んだ黒い三つ編み。
ひらりと踊るスカートや、軽やかに跳ねる茶色い髪に憧れないと言ったら、嘘になる。私にもう少し自信と勇気があったなら。そう思いながら私は、今日も太い三つ編みを揺らして席に着いた。
「苗字ちゃん、おはよー」
そんな私に明るい声をかけてくれたのは、隣の席の及川くんだった。
「お、おはよう」
隣の席になって以来、彼と少しだけ話すようになった。
見た目の通りに口下手な私が負い目を感じないように、彼は多くを喋らないでいてくれる。私はそれが、とてもありがたかった。お互いが必要な最小限の言葉で、私は彼と良好な関係を築いていたのだ。
――この時までは。
「あれ? 苗字ちゃん、今日なんか雰囲気違うねえ」
私の口元が、一瞬ぴくりと引きつる。
及川くんの性格なら、きっと気付いてくれるだろうと思っていた。そして、おそらくにこりと笑ってそれを褒めてくれるであろうことも、わかっていた。
だから私は、少しだけ変われたのだ。
「新しいリップいいね。似合ってるよ」
少しだけ背伸びして買った、色付きのリップクリーム。
綺麗な女の子に比べたら、まだまだ地味な私だけれど。
昨日よりも少しだけ鮮やかな唇で「ありがとう」と笑う。紅色の唇でなら、少しだけ饒舌になれる気がした。
紅花栄;べにばなさかう
口紅の原料にもなるベニバナの花が、盛んに咲く季節
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