千鶴は早くも疲れてしまったのか、仕事を放棄して畑の脇にしゃがみ込んでいた。それを見た私は、額に浮かんだ汗を拭って立ち上がる。
激を飛ばそうとした私を、しかし千鶴のおばあちゃんがやんわりと引き留めた。「名前ちゃんも、ちょっと休むか。なんか冷たいもんでも飲もうなあ」と笑んで、ゆっくりと家に戻ってゆく。私はその背中に「あ、すみません!」と投げかけてから、改めてじとりと彼を見遣った。
「あんた、草抜きもできないの?」
私の言葉尻に交じった険を華麗に無視した千鶴は、こちらを見向きもせずに、神妙な調子で「カマキリがさあ、」と言った。
カマキリ? と思いながら彼の視線の先を見れば、そこにはやや小ぶりなカマキリがいた。そのカマのような前足で、茶色いバッタをがっしりと捕まえている。
カマキリが、屈強なあごで獲物の腹にかじりつく。カマの間から飛び出した茶色く細い脚がもがくように小刻みに揺れる。私は思わず顔を顰めた。
畑仕事をさぼってこんなものを見ていたことを糾弾したい気持ちが湧き上って来ると当時に、この光景から目を離せなくなってしまっている自分がいた。
いつも騒がしい金色の頭が、この時ばかりは静かに弱肉強食の世界を見つめている。その寂静さになだめすかされて、私の中にあった千鶴への苛立ちやこの光景への嫌悪がどこかに影を潜めてしまったのだ。
千鶴はぱちんと一度合掌してから、唐突に立ち上がる。
「よっしゃーばあちゃんとこ行こうぜ」と言いながらこちらを振り向いた彼の顔は、さっきまでの寂静さはどこへやら、いつも通りのちょっとバカっぽい笑みを浮かべていた。
螳螂出;かまきりしょうず
越冬した卵臥から、カマキリが生まれ出る季節
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