田んぼの脇を流れる用水路の小さな土手の上に、ぽうっと柔和な黄色い光を放つホタルを見つけた。
私が上げた「わあっ」という歓声につられるように菅原さんもそちらを振り返り、一定のリズムで明滅する蛍火を見つけたらしい、「おっ、ホタルか!」と嬉しそうな声をあげて小さな光に歩み寄った。

二人で道の脇にしゃがみ込み、淡い光を見つめる。
すっかり日の暮れてしまった帰路に灯った小さな灯りが、菅原さんの微笑を黄色く照らし出す。

ホタルの明滅に合わせて、現れては、消える、菅原さんの顔を見つめていると、私の視線に気付いた彼が茂みに落としていた視線を持ち上げて、にっと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
見慣れたはずの笑顔は、なんだかとても、蠱惑的だった。あの蛍火のせいだろうか。慌てて視線を落とした私を見て、彼は小さく声をたてて笑う。

暗闇に消えてゆくその声は、ホタルの光のように柔らかだ。
優しい初夏の夜が更けてゆくのを感じながら、私たちはもうしばらく、滲むような蛍火を見つめていた。


腐草為蛍;かれたるくさほたるとなる
暑さに蒸れた草の下から、蛍が現れる季節




ALICE+