あやめの花を見てはしゃいでいたあの子たちを、私は今でもはっきりと覚えている。隣で菖蒲色の花弁を眺めている清麿も、金の髪を揺らして駆け回っていた彼のことを思い出しているのだろう。強い意志を宿すその瞳を今は和らげて、風に揺れる花を見つめている。
はじめてここに来た時の騒がしさはもう、私の、そして清磨の、記憶の中にしかない。あやめを揺らして公園を渡ってゆく風が、私の胸もそよそよと揺らす。

「連絡があった時はさ、ちょっと、迷ったんだ」

彼は優雅な曲線を描く花弁を見詰めたまま、ごく静かにそう言った。
私も、今年はここには来ないつもりだった。思い出は胸の中、それで十分だと思っていた。
魔界に帰ったあの子から届いた手紙に綴られた近況と感謝の中に、この公園でガッシュと見たあやめのことが書かれていなければ、清麿に連絡をすることはなかっただろう。

「でも、来てよかったよ」

凛々しい双眸を柔らかく細めて、彼は笑った。私は零れそうになる感情を抑えるようにぐっと唇を引き結ぶ。言葉の代わりに、深く深く頷いた。来てくれてありがとう。また会えて嬉しい。言いたいことはいっぱいあったけれど、今、口を開くと抑えている感情が一気に零れてしまいそうだったのだ。
清麿はそんな私を見て、「名前は変わんないな」と言って、またちょっと笑った。


菖蒲華;あやめはなさく
ハナショウブの花が咲く季節




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