あついー、なんて言いながら下敷きで襟元をぱたぱたと扇ぐと、隣の席の影山が呆れたような顔をして「まだ7月になったばっかだろ」と言った。

「じゃあ影山は暑くないの?」

涼しい顔をする彼にそう問いかけると、彼は高らかに「暑い」と言う。そのきりっとした表情が、却っておかしかった。
私はくすくすと笑いながら下敷きを影山に向け、容赦なく扇ぐ。緩やかな突風が、彼の顔を直撃した。前髪がふわりと舞い上がって、綺麗なおでこがこんにちは。影山は嫌悪を隠すことなく両目を鋭く細めて「おいコラ苗字ヤメロ」と言い、風を避けるように肩を引いた。

いつもの私なら追いかけて執拗に扇ぐくらいのことはやってのけるのだけれど(そしていつも彼に怒鳴られるのだけれど)、なんとなく、今日はそれが躊躇われた。
私が大人しく風を送るのをやめると、影山は意外そうな顔をして「今日は素直だな」と言った。そよいでいた前髪が落ちて、彼のおでこを隠す。

「あら、私はいつだって素直ですよ」

私はやや大げさに肩を竦めてそう言って、再び自分を扇ぎはじめた。緩い風に、私の前髪が踊る。さっきの影山のように、私のおでこも丸出しになっているのだろうか。それがなんだか少し恥ずかしく感じられて、私は下敷きを動かす右手の力を少し弱くした。


半夏生;はんげしょうず
カラスビシャクが生えてくる季節




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