ぱしゃり、とシャッターを切る音が聞こえた。
それはいつも聞きなれた携帯電話やデジカメの電子的なシャッター音ではなく、なんというか、もっと深みのある、音だった。
私はそれにつられるように音のした方に首を向ける。
そこには、私と同じ穂希高校の制服を来た大きな男の人がいた。その大きな両手で構えられた黒いカメラが、とても小さく見える。ああ、あれがさっきの音の主だな、と思った瞬間に、もう一度ぱしゃり、とあの深い音が鳴った。
私の視線に気付いたのか、背の高い彼はカメラを胸の高さまで降ろして「すみません」と、その巨体に似合わない小さく穏やかな声で謝辞を述べた。
「いえ、」
私はそう言って、ついさっきまで見つめていた公園の池に視線を戻す。
そこでは、薄桃色に色づいた花弁を広げる大輪の蓮が、いくつも花を開いていた。
「綺麗ですもんね」
思わずシャッターを切りたくなる気持ちも、わかる気がした。私はそう言ってから、微笑んで彼を振り返る。
彼はカメラを構え、そのレンズを蓮ではなくて、私に向けていた。……あなたは蓮を撮っていたのよね? カメラを向けられて緊張してしまったせいかそんな簡単なことも尋ねられない私の頬が、少しだけ熱くなり、薄桃色に染まる。
「そうですね」
彼は静かにそう言って、シャッターを切った。
蓮始開;はすはじめてひらく
蓮の花が開きはじめる季節
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