夏休みになったというのに、彼は毎朝私の家の前を通って学校に向かう。今まで部活なんて真面目にやったことのない私にとって、彼のその勤勉さは、はっきり言って理解できない。阿含の怠惰で横暴な態度の方が、まだ私には易しい。
私が生まれた年に庭に植えたらしい、なんとかという木のてっぺんに浅緑色の実が固まってなっているのを一瞬見上げた雲水は、しかしそのまま視線を正面に戻し、あの冴えない無表情で黙々と歩いてゆく。私はそれを、クーラーの効いた室内からぼんやり、眺めている。

「よくやるよね」

彼に届くことのない私のつぶやきは、科学の力によって快適に保たれた空気にうまく馴染まず揺曳する。私はそれに思わず顔を顰めてしまった。独り言とか、なに感じ入ちゃってんの、私。

雲水は滞りなく歩を進め、彼の横顔はすぐに見えなくなった。
私はおもむろに立ち上がると、私のいる快適な空間と凶暴な熱気の渦巻く外とを隔てる透明な硝子のはまった窓を、躊躇うことなく引き開けた。むわっとした熱が、すぐに私の顔をなぶる。肌にまとわりつく湿度が気持ち悪い。
こんな中を毎日練習に向かうなんて、やっぱり私には理解できない。そう思いながら私は、つい先刻雲水がやったように、庭の木のてっぺんを振り仰ぐ。その向こうに広がる抜けるような青空が、ちっぽけな私を見下ろしていた。


桐始結花;きりはじめてはなをむすぶ
桐の実がなりはじめる季節




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