参ったなあ、なんて言いながらもいつも通りの柔らかい笑みを浮かべる彼の隣で、私は「だから言ったじゃないですか」と少し得意げになって言った。
この季節、山の向こうから流れてくる厚い雲は要注意。幼い頃からこの町で暮らす私は、この夕立にももう慣れたものだけれど、旅人であるゲンさんは、そうではないらしい。彼は大きな雨粒が地面を叩き始めた時、その穏やかな双眸を珍しく見開いて、つい先程まで快晴だった筈の暗い空を見上げていた。
雨に濡れた白いシャツが肌にまとわりつく感覚は決して心地よくはないけれど、彼の珍しい表情が見られたから、まあ、よしとしよう。
咄嗟に駆け込んだ大樹の下で、ゲンさんは帽子や肩についた雨粒を優雅な動作で払いながら、「うん、そうだね」と言って、私を見てすまなそうに眉尻を下げて笑った。
「私のせいで、きみを濡らしてしまったな」
そう言って、彼は夏だというのに涼しい顔で着込んでいた紺色のジャケットを脱ぎ、私の肩にそっとかける。
その意図が分からずにやや怪訝な顔つきで見上げた先のゲンさんは、黒い開襟シャツ一枚になった肩を竦めてから、私たちの頭上に茂る梢を見上げた。
大雨時行;たいうときどきふる
時折、激しい夕立が降る季節
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