まだ朝にもならないうちに目が覚めた。薄いブランケットにくるまっていた私は、思わずぷるっと肩を震わせる。
暦の上では秋になっているなんて昼間のうちは思えないけれど、なるほど確かに、だんだんと朝夕の涼しさは際立ってきているようだ。

時計を確認した私は、仕事に出るまでまだかなり時間があることに気付き、少し迷ってから、ベッドから起き上がってパジャマからラフなパーカーとジーンズに着替えた。
扉を開けると、少し湿った涼やかな空気が肌を覆う。その冷気に秋を感じつつ、私はまだ薄暗いナギサの街を当てもなく散歩することにした。

高台の住宅地を抜け、ソーラーパネルの階段を下り、切り立った海岸線に出たところで、私は思わず足を止めてしまった。開けた視界一面に、朝霧が立ち込めていたのだ。
ゆらゆらとたなびく月白色の霧は、私の髪や肌にまとわりつき、薄手のパーカーをじんわりと湿らせたが、私はそれを意に介することなく霧の中を進んだ。一寸先の見えない霧の中を進むのは、冒険のようで少し楽しかった。

零れる笑みを隠すことなく「ふふ」と声を漏らした瞬間、朝霧の中から、私の目の前に急に人影が現れた。
はっと息を飲んで立ち止まる私と、現れた人影の動きがリンクする。びくん、と肩を震わせた人影に目を凝らすと、深い霧の中で鮮やかな金の短髪が揺れるのが見えた。

「デンジ?」とおずおずと呼びかけると、人影は聞きなれた声で私を呼んだ。
なんだ私、デンジに驚いていたのか。そう思うと、可笑しくて、私はまた「ふふふ」と声をたてて笑ってしまった。

そんな私を見下ろすデンジはズボンのポケットに両手を突っ込んだまま「ま、丁度いいか」と呟いて、家に向かって歩き出した私の後をしれっとついてくる。あ、こいつ、朝ごはんを狙っているな。


蒙霧升降;ふかききりまとう
深い霧が音もなく立ちこめる季節




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