白いシャワーヘッドから流れ出る透明な糸が、花壇を潤してゆく。青々と茂る葉についた水滴が夏の太陽を受けてきらりと輝いた。それに目を細める私の腕に、残暑とは名ばかりの日差しがじりじりと照り付ける。
もともと花が好きだった私は、家が学校から近いこともあり、園芸部の水やり当番の割り振りの大部分を任されていた。夏休みだというのに制服を着て毎日学校に行く私を見た帰宅部の友達は「大変だねえ」なんて気の毒そうに言っていたけれど。毎日世話をしている花が綺麗に咲くと嬉しいし、なにより。

「おい、苗字!」

この人に会いたくて私は、毎日せっせと水をやりに来るのだ。
ぱっと振り返ると、そこには着ていたTシャツを脱いで仁王立ちしている鎌先くんがいた。その鍛えられた体に、いつものことだと分かっていても、やっぱり少しだけどぎまぎしてしまう。
私ははやる心臓を抑えるようにわざとゆっくり「はいはい」と言いながら、手にしていたシャワーヘッドを鎌先くんに向けた。さあっと降り注ぐ透明な糸がきらきらと輝きながら、彼の金の髪を濡らしてゆく。

夏の間だけ、鎌先くんは水をやる私の所にやってくる。正確に言うならば私の所にやって来ているのではなくて、暑い夏の練習を乗り切るために水をかけてもらいに来ているだけなのは分かっている。でも、それでもいいのだ。

「サンキュー!」

鎌先くんはそう言って、その強気な眼差しをぎゅっと細めて笑った。

「いーえ、私は水をやるのが仕事ですから」

少しだけおどけたようにそう言ってから、私もつられたようにぎゅっと笑う。私にはこんなことしか出来ないけれど、これが彼のためになっていれば、それで。


綿柎開;わたのはなしべひらく
綿の果実が晩秋に向けて成熟しはじめ、綿を包む咢が開く季節




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