「名前さんじゃないっすか! めずらしー」

休憩に入ったタイミングを見計らって現れた私に気付いた二口が、調子のいい笑みを浮かべてこちらに駆け寄ってくる。
「気が向いたので、来てみました」と言ってぺこりと礼をすると、他の部員たちも「お疲れーっス!!」と野太い声で私を迎えてくれた。皮膚を揺らす様な重低音がとても懐かしくて、私は思わずふふっと笑ってしまう。
目ざとい二口に「なに笑ってるんですか?」と突っ込まれたけれど、本当のことを言うのが少し恥ずかしかった私は、「二口がキャプテンなんだなーと思って、しみじみしちゃった」と嘘をついた。少しむすっとしてしまった彼の機嫌をとるように「ごめん、冗談だって」と言ってから、私は右手に持っていたビニール袋を差し出す。

「これ、差し入れ」

そう言って、馴染みのスポーツ用品店のビニール袋に入ったテーピングテープ(もちろん伸縮・非伸縮みんなの好みに合わせて各種取り揃え)を渡すと、二口は中身を確認してから、みんなに「おーい、名前さんにテープもらったぞー」と声をかける。今度は「あざーっす!!」の大合唱。
私はそれに「どういたしまして」と微笑んでから、「じゃあ、」と踵を返す。二口は「え? もう帰るんですか? どうせなら手伝ってってくださいよー」と少し唇を尖らせたが、私は「三年は忙しいんですよ」と言って、彼のお願いを断った。

あんまりここに長居をすると、懐かしい気持ちが暴れ出してしまいそうだった。生意気だった二口も、いつの間にかみんなを引っ張る主将の役割をきちんと努めている。……今なら、部活に顔を出さない茂庭の気持ちが少しだけわかる。

「みんな、春高がんばってね!」

そう言った私に、みんなは「ッス!!」ととても気合の入った返事をしてくれた。轟く雷鳴のようなこの声も、これでしばらく聞き納め。


雷乃収声;かみなりすなわちこえをおさむ
秋分をむかえ、夏の間鳴り響いた雷鳴が聞こえなくなる季節




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