開けっ放しにしていた窓から入ってくる風が、涼しさではなく肌寒さを連れてきた。
私は、その秋らしさにはっとして、英語の教科書から視線をあげる。先生に指された女の子が、お世辞にもうまいとは言えない発音で教科書を読み上げる声が響く中、私は薄いベージュのカーテンを揺らして入ってくる風に再びぶるっと体を震わせた。
どうやら、いつのまにか季節は秋になっていたらしい。
私は先生にばれないように、視線を左側――窓の方へとそっとずらす。そこには、思った通り、風を呼び込むように薄く開いた窓があった。私はあの窓を閉めて、すぐに授業にもどるつもりだった。
しかし、それは叶わなかった。私の意識が、その窓の脇で授業を受けている赤葦くんの姿に釘付けになってしまったので。
ふわりと揺れたカーテンの柔らかなドレープと、窓枠に切り取られたどこまでも高く澄み渡るヒヤシンスブルーの空。そんな穏やかな色を背景にして、彼はまるで写真のように身じろぎひとつせず、そこにいた。
もしも今がお昼前だったなら、窓から侵入してきた日差しが彼の少し癖のある髪の毛を柔らかく輝かせていたに違いない。そうでないことを少しだけ悔やみながら、私はまばたきも忘れて彼を見つめていたのだが。
不意に、教科書に注がれていた彼の視線が持ち上がる。切れ長の瞳がすっと動いて、彼の鋭い視線が私を射抜いた。
目が合っていたのは、きっとほんの一瞬だった。
再びカーテンを揺らした秋の風が、私の肩をぶるっと震わせる。
たったそれだけですべてを察してくれたらしい赤葦くんは、私からふいっと視線を外すと、少しだけ腰を浮かせて窓を閉めてくれた。
そしてそのまま、教科書に視線を落とす。まるで一枚の写真のように秋の似合う彼に、私は小さく会釈をして、唇だけでありがとうと呟いた。
蟄虫塞戸;むしかくれてとをふさぐ
春先に出てきた巣ごもり虫たちが、土の中に潜って戸をふさぐ季節
※「塞」は旧字がweb表示できなかったため、意味の近い文字を充てています。
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