蛭魔くんは私に自己紹介をさせるとすぐにパソコンを開いて何かの作業を始めてしまったのだが、マネージャーである姉崎さんがみんなの紹介をしてくれたため、私はなんとかその輪の中に加わる事が出来た。
校内でも美人でしっかり者と名高い姉崎さんがよりによって蛭魔くんのアメフト部にいたことは少し意外だったが、話を聞いてみると動機はとても単純だった。一年生で主務のセナくんは姉崎さんと幼馴染みらしく、彼を蛭魔くんの魔手から守るためにマネージャーを買って出たのだという。
「名前ちゃんも、ひどいことされそうになったら言ってね?」
私の事を心の底から心配してそう言ってくれているであろうことが、その真っ直ぐな瞳から窺えた。初対面の私にもこんなに真摯に接してくれたことが素直に嬉しくて、私はちょっとはにかんで「うん、ありがとう」と頷いた。
それから、言われるがままにしばらく葉書の宛名書きを手伝っていたのだが、時計を見た栗田くんの一言でその作業は中断することとなった。
「そろそろテレビで王城戦始まるよ!」
それを聞いた蛭魔くんは、何処からともなく取り出したリモコンのスイッチをぴっと押す。すると、部室の電気が一斉に消えて、派手な機械音と共に部室の奥にスクリーンが現れた。部室の天井に設置されていたらしいプロジェクターが起動して、テレビの映像が鮮明に映し出される。
カジノといい、ハイテクな映像機器といい、ごく普通の私立高校の部室にしては不似合いな設備だが、蛭魔くんの存在を考慮すると、全てがいろんな事象を超えて成立してしまうのだから、恐ろしい。けだるげな表情でチャンネルを変える彼を畏怖の念と共に見つめていると、リモコンを机に置いた蛭魔くんと目が合った。彼はスロットと机の間をつかつかと歩いてこちらに来ると、すぐそこにあった椅子を引き寄せて私の近くにどかりと腰をおろす。
そして、左手でスクリーンを示して言った。
「見ろ」
言われるがまま、視線を彼の指先に向ける。
王城ホワイトナイツVS泥門デビルバッツ、と大きく書かれた画面から、これから蛭魔くんたちの試合が放映されるであろうことがわかる。テレビに映るなんてすごいな。そう思った私の口から、感嘆を含んだ「わあ」という声が漏れ出した。
視線の先のタイトル画面が、こちらに爽やかな笑顔を向ける白いユニフォームを来た男の子の映像に切り替わる。この顔、どこかで見たことがあるな。そう思った私は記憶をたどり、すぐにそれを見付けた。
「あ、アメリカンバーガーの人だ」
最近、テレビのコマーシャルでよく見かける同世代の男の子。その彼がアメフトの防具を付けて、テレビに映っていた。
「桜庭くんは、王城ホワイトナイツのレシーバーなのよ」
姉崎さんが加えてくれた注釈のおかげで、私は自分が部室に連れて来られた理由をようやく理解することが出来た。蛭魔くんは、レシーバーがなんなのかわからない私にこれを見せたかったのだ。
彼の意図を理解出来たことが何となく嬉しくて、こぼれる笑みを抑えられないまま蛭魔くんの方を振り返った。攻撃的な金の髪の下の吊り上がった目が、私の突然の行動に驚いたようにぱちっと見開かれる。その、ちょっと蛭魔くんらしからぬ表情が可笑しくて、私は笑みを更に深くした。
しかし、次の瞬間には蛭魔くんに「見ろっつってんだろ、糞チラシ係!」と盛大に怒られてしまって、私は慌ててスクリーンに向き直る。
私は身を縮めてスクリーンに視線を注ぎながら、糞チラシ係はちょっとどうかなあ、と思った。もちろん、口には出さなかった。
←