小ぶりなじょうろに水を入れて、玄関先にいくつも並ぶプランターに水をやる。街路樹よりも一足先に秋らしい色に染まったそれに目を細め、一息つくように持ち上げた視界の隅に、私は見慣れた長身の男の姿を捉えた。長い手足に良く似合う白い制服。休みの日までご苦労なことだ、と思いながら私はじょうろを置いて、代わりに先日咲いた菊の花を一輪摘み取った。
菊と言っても、うちの玄関先にあるのは葬送花として用いられるような厚物ではない。庭先や山野なんかでよく目にする、小ぶりな、野菊のような愛らしいものだ。
「さっくらば!」
私の声に、彼は長い足を止めてこちらを振り返る。生まれつき綺麗な黄金色をしているその髪を坊主に刈り込んだのは、夏の最中のことだった。あの頃はまだつぼみもなかったこの菊も、今ではこんなに立派な花を咲かせている。
「これあげる」
彼の元へ駆け寄って、その髪に菊の花を飾りながら、私はそう言った。形のいい目をきょとんとしばたかせる彼の顔の横で、秋らしい飴色の髪に白い花弁がよく映える。
桜庭はすぐさま事態を理解して、少しだけ顔をしかめる。しかしその飾らない表情は、却って素朴な菊と調和した。私が満足げに笑いながら「うん、やっぱり似合うねえ」と言うと、彼は小さく溜息をついてから自分の髪から菊を抜き取り、それを私の髪にそっと挿し直した。
菊花開;きくのはなひらく
寒さに強い菊の花が咲く季節
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