一年中ずっと花の絶えることのないサイユウシティ。花に囲まれていると言えば聞こえはいいが、裏を返せば、この島には花しかないということになる。
ポケモンリーグの運営する施設は、ホウエン地方でも軒並み就職先として人気が高い。だが、その総本山であるサイユウ本部だけは、民間の企業よりも志望者の少ない状況が続いていた。
その原因は明白だった。この街が『シティ』とは名ばかりの、花しかない街だから。人はみな、便利な都会に行きたがる。こう言っては悪いかもしれないが、あの田舎のヒマワキジムでさえ、毎年就職希望者がいるというのに。

「今年も、サイユウ本部だけ人員補強なしなんですって」

挑戦者があるというので久方ぶりに本部に顔を出したチャンピオンに、私はお茶を出しながらぼやくようにそう言った。
本部の窓の向こうに見えるのは、来年の開花に備えて栄養を蓄えているデイゴの木。それから、冬のないサイユウで雪のように可憐な白い花を咲かせる、サザンカだ。窓の外を見ていたダイゴさんは、私の不満そうな声にふふっと微かに笑ってから、優雅な動作でガラスのカップを持ち上げる。

「優秀な人材がいるからね、仕方ないことだよ」
「はあ、」

ダイゴさんの言葉は、たまに要領を得ない。私は彼の言葉に小さく首を傾げながら、彼の向かいに座る。

世界中を旅する彼の話を聞くことは、サイユウに住む私にとって数少ない娯楽のひとつだ。
「で、今回はどこに行かれたんですか?」と彼に尋ねかけてから、自分のカップにもお茶を注ぐ。慣れ親しんだ茉莉花の香りを肺いっぱいに吸い込んで、私は彼の言葉を静かに待った。


山茶始開;つばきはじめてひらく
立冬をむかえ、サザンカが咲きはじめる季節




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