廊下ですれ違った武ちゃん先生にぺこりと会釈をすると、先生は私の持っていた水仙に目を止めて、その美しさに感嘆したような声をもらした。鮮やかな黄色の花弁と、潔い直線を描く深緑の葉。

「今日は水仙ですか。綺麗ですね」
「はい。私、水仙好きなので、今から楽しみです」

週に一回の華道部の活動日。私はいつもこの廊下で、お稽古に使うお花を持って、武ちゃん先生とすれ違う。先生はいつもにこにこ笑いながら「綺麗ですね」と言ってくれる。私は毎週、それを密かな楽しみにしているのだ。

お花は、人の心を感じることが出来るのだという。柔らかなことばをかけ、たおやかな心で触れることで、花はより美しくなるのだ。
そんなのは気持ちの問題だ、と言ってしまえばそれまでなのだけれど、でも、私はそれを真実だと思うことにしている。

だって、武ちゃん先生に綺麗だねと言われた水仙は、さっきよりもその美しさを増しているように、私には見えるから。

「そうですか。水仙も苗字さんに生けてもらえて、喜んでいるでしょうね」
「そうだと、いいです」
「きっとそうですよ」

先生はいつも、恥ずかしげもなくそんなことを言う。けれどそのことばのおかげで私は、綺麗な心で花に触れることが出来るのだ。


金盞香;きんせんかさく
冬の寒さの中で背筋をまっすぐにのばし、水仙の花が咲く季節




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