「ふーん。で?」
みかんを剥きながらそう相槌を打った私に、しかしスズメは矢継ぎ早に言葉を続けた。
うちに押しかけてくるなりこたつに入っていた私の肩にすがり、「名前ちゃん聞いてよー!」と泣きついてきた彼女。私がどんなに適当な返事を返しても、彼女はめげることなくあの柔らかな声で最近の高嶺くんの様子を語った。
スズメ曰く、最近の高嶺はどこか元気がないらしい。スズメたちとクラスの違う私は、彼女ほど高嶺を見ているわけではない。しかし、時折見かける彼に別段変わったところはなく、言ってしまえば、全くいつも通りだとしか思えない。
「わたし、どうしたらいいかなあ」
しかし、昔から高嶺を気にかけていたスズメには、私には見えないものが見えるのだろう。
いつもは快活に揺れている彼女のショートヘアが、今日は冬の湿気にあてられて、どこか重たく潤んでいる。がっくりと落ちた肩、悩ましげに引き結ばれた唇。いつも笑顔の彼女らしからぬその姿に、私の胸が微かに曇る。
私は知っている。スズメに笑顔を取り戻せるのは、私ではない。
私が話を聞くだけでスズメが元気になるのなら、いくらだって真摯に話を聞こう。けれど、彼女は別にそんなことは求めていない。
私は落ち込む彼女から視線を切って立ち上がると、ペン立ての中から油性のマジックを取り出した。そして、こたつの上に盛られたみかんをひとつ取って、それにぐりぐりと顔を描く。
私はこれをスズメに放って、なにか彼女を叱咤激励するようなことを言う。そうしたら彼女は、これを持って今日のところは帰ってゆく。そして明日か明後日には、私が描いたこのみかんみたいな笑顔になって、私の前に現れる。
ずっとずっと、私と彼女はそうだった。私に出来ることは、ほんとうに少ない。
高嶺のばか、しっかりしろ。そう思いながら私は、ばかみたいに笑うみかんを彼女に向かってそっと投げた。
橘始黄;たちばなはじめてきばむ
橘の実が、黄色く色付きはじめる季節
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