昇降口で出会った茂庭は、頭に大きな牡丹雪をくっつけたまま、白い息を吐いていた。少し茶色がかった猫っ毛に雪の破片が咲いている様子は、とてもかわいらしい。
本人に言ったら、不機嫌そうな顔をするだろうか。きゅっと持ち上がった大きな目を眇めている茂庭は、簡単に想像できた。……うん、あんまり嬉しくなさそうだから、本人に言うのはやめておこう。

「茂庭、おはよ」

ローファーを下駄箱におさめる彼に声をかける。
茂庭は、くるっと首を捻ってこちらを振り返ると、「おー、おはよう」と言ったかと思うと、唐突に、ぷっと吹き出した。くつくつと笑う彼の肩が小さく揺れる。

「え、な、なに?」

思わず身構えてしまった私に、茂庭は「ごめんごめん」と半分笑いながら謝って、それからこう続けた。

「雪がさ、ここについてて」

茂庭の手が、さっとこちらに伸びてくる。綺麗に整えられた爪に気を取られたのは、一瞬のことだった。彼の手先が、私の前髪にふわりと触れる。その僅かな感触に、どきんと心臓が跳ねた。

「今朝すれ違った小学生がおんなじところに雪くっつけてたんだよ、それでおかしくてさ」

ぱっちりとした双眸をきゅっと細めて鮮やかに笑う茂庭。もうその手は体の横に戻っているのに、私の額はなぜだか燃えるように熱い。
茂庭の頭に咲いた牡丹雪が、彼の笑い声に合わせて揺れる。私はおでこの熱をごまかすように前髪を直すふりをしてから、「笑い過ぎじゃない?」という負け惜しみのような言葉を白い息と一緒に押し出した。


閉塞成冬;そらさむくふゆとなる
空が厚い雪雲に覆われて、雪が激しく降りはじめる季節




ALICE+