街の広場にはモミの木が立って、赤や金のオーナメントが飾られているらしい。彼氏のいる友達は、一緒にイルミネーションを見に行くとかなんとか言っていたっけ。
まあでも、期末テストの赤点補修で一日学校に軟禁される私にはあんまり関係ない話だ。
「せんせー、ここわかんない」
もう何度目かもわからない私のその声に、追分先生は精悍な顔を僅かにしかめて私のプリントに視線を落とした。この問題ならさっき説明しただろう、と言いたげなため息をついた先生に私は、「ラジアンがよくわからないのでもう一回お願いします!」と言ってにこりと笑う。
運動部の顧問らしく浅く焼けた顔に疲労と憐みの入り混じった複雑な表情を浮かべた先生は、もう何度目かわからないため息をついてから、噛んで含めるようにゆっくりと、公式の使い方を説明し始めた。
私のプリントに説明を書きくわえてゆく、ごつごつとした手。私の書いた丸っこい数字の横に、流れるような筆跡の大人の文字が並ぶ。
私のためにゆっくりと話すその口調と声の調子は、どうしようもないくらい耳に心地よい。
先生は今日、家族のためにケーキを買って帰ったりするのだろうか。
奥さんや娘さんに、どんなプレゼントを渡すんだろう。
「苗字、聞いてるか?」
「きっ聞いてます」
「じゃあやってみろ」
本当のことを言うと、先生の説明は全く頭に入って来ていなかった。けれども、それは私がこの問題を解くうえで大した問題にはならなかったりする。
「できた! 合ってますか?」
合っているに決まっている。ラジアンなんて三角関数の初歩の初歩、わからないわけがない。
私の回答を見た先生は、とりあえず第一関門突破だなというように、その精悍な顔に僅かな笑みを浮かべた。それを見た途端、私の胸がぎゅうっと締め付けられるように痛む。
「よし、じゃあ次いくぞ。わからなかったらすぐに言うように」
「はーい、せんせー」
努めて無邪気に笑ってそう言った私は、それからまた先生の声にそっと耳を傾けた。
麋角解;さわしかのつのおつる
大鹿の角の生え変わりがはじまり、角が落ちる季節
※この鹿は、一般的にヘラジカであるとされていますが、「麋」という文字が「なれしか」と読み、トナカイの一種であること、麋角解が12月27日〜31日を指すことから、少し時間を戻してクリスマスの話にしました。
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