やって来たのは、下町風の小さな印刷工場だった。
社長さんらしき40代半ばの男性は蛭魔くんを見るなりぺこぺこと頭を下げて私達を工場の中に招き入れた。

蛭魔くんから原稿を受け取ってからの恐ろしい程の手際のよさから、社長さんの腕のよさと蛭魔くんに対する忠誠がありありと伝わってきた。蛭魔くんにじとりとした視線を送ると、ケケケと乾いた笑いが返ってきた。

あっという間に5000枚のチラシを印刷して箱詰めしてくれた社長さんは、「用があったらいつでも言ってね!だからくれぐれも、あの件はよろしくね!」と何度も言って、私たちを送り出した。





「今後、印刷も全部テメーの仕事だからな」

段ボールを抱えて泥門高校へ戻る道中、蛭魔くんはそう言った。重い段ボールを持ち上げた瞬間に私が少しよろけてしまったのを見ていたからか、彼の歩調は往路よりも随分とゆるやかなテンポを刻む。
私は彼の隣で短く「うん」と頷いた。彼が私の願いを聞いて一緒に連れていってくれたこと、それから、今まで彼が一人でやっていたのであろう印刷の仕事を任せてくれたことが素直に嬉しかった。

蛭魔くんは今まで、こういう細々とした仕事も全部自分で引き受けていたのだろうか。帰宅部の私にはうまく想像する事が出来ないけれど、アメフトの練習をしながらそういった雑務をこなさなければならないのはきっと、大変なことなのだろうと思う。
蛭魔くんがアメフトのためにどうしてそこまでするのかはわからない。けれど。

「随分ものわかりがいいこって」

こうやってにやりと笑う蛭魔くんの顔、嫌いじゃない。

「だって私たち、オトモダチでしょ?」

昨日の蛭魔くんの言葉を引用してそう応えると、彼は至極愉快そうにその顔を歪めた。
私がここで働く理由は、今はこれだけでいい。




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