のどの奥から漏れたのは、高い悲鳴だった。
昨日の天気予報で、路面の凍結に注意とお天気姉さんが言っていたのを思い出したが、もう遅い。寒さとは別の原因で、体の芯がさあっと冷えてゆく。

あ、転ぶ。

凍った地面を踏みしめ損ねた足が、氷の上を滑り、勢いよく跳ね上がった。人体の構造上、足が持ち上げられれば、上体は後ろに引かれて落ちる。視界いっぱいに重い雪雲の垂れ込めた空を見ながら私は、後ろに落ちてゆく。
咄嗟のことで受け身も取れそうにない。ああ、痛いだろうなあ。そう思いながら私は、ぎゅっと目をつむる。

――しかし、痛みはやってこなかった。

「ちょっと、なにやってんの」

代わりに、少し気だるそうな声が、上の方から降ってきた。
硬く冷たい地面とぶつかるはずだった背中は、なにかあたたかいものに包まれている。あ、これ、あれだ、私、助けてもらったんだ。

固く閉じていた瞼をぱっと開く。そこには、呆れたような表情を浮かべた蛍くんがいた。つい先程まで私の視界を占領していた曇り空を背景にして佇む彼は、眉をひそめたまま口を開く。

「そこ凍ってるの見ればわかるよね? なんで転びそうになってんの?」

凍っていた体の芯は、背中から伝わる熱でじわりと溶けてゆく。にもかかわらず私は、彼の顔を見上げたまま、その場を動くことが出来なかった。


水沢腹堅;さわみずこおりつめる
沢を流れている水も、寒さに凍りついてしまう季節




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