お化け役に割り振られたクラスメイト達がいきいきと案を出し合う中、俺はひとりだけ会話に参加できないでいた。自分がやりたいお化けについて話し合っていたはずの会話は、いつの間にか自分の好きなホラー映画の話にすり替わってしまっていたのだ。
俺はわいわいと盛り上がる彼らから少し距離をとった場所に座って、背中を丸め、ひたすら彼らの話を聞かないように努めていた。映画のストーリーだろうが、キャラクターの説明だろうが、怖いものは、怖い。

そんな俺の背中を、ぽんと誰かが叩いた。
俺は突然のことに、声にならない叫びを上げながら顔を上げる。振り向いた先にいたのは、苗字さんだった。彼女はびくっと震えた俺の肩にびくっと驚いたらしい、「えっ? なに?」とすっとんきょうな声を上げながら、その上がり気味の瞳をまん丸に見開いた。
肩を叩かれたことに驚いた。……なんて言ったら、また馬鹿にされたり、がっかりされたり、するだろうか。俺は「なんでもないです、なんでも」と言葉を濁す。すると彼女は、少し怪訝そうな顔をしながらも「そう?」と短く言っただけで、それ以上この件を追及しようとはしなかった。

「東峰はどんなお化けにする?」

代わりに彼女は、にこにこと愛想のいい笑みを浮かべながら、俺が今最も嫌厭したがっている話題を口にした。彼女の笑みの向こうでは、相変わらずホラー映画談議が続いているらしい。断片的に聞こえてくる呪いの家、だとか、髪の毛が、とか、そういう恐ろしげな単語から思わず顔をそむけた瞬間、苗字さんが「もしかして、」と口を開いた。

「東峰、お化けとか苦手?」

ぎくり。たったあれだけの仕草で見抜かれてしまったことに少しだけ驚きつつ、俺は再び苗字さんに視線をやった。
彼女は、心配そうに眉をひそめて俺のことを見つめていた。彼女のその表情を目にした俺の中に、一つの希望が浮かび上がる。ここでお化けが苦手であることを告白すれば、もしかしたらお化け役を免除されたりしないだろうか。苗字さんのこの心配そうな表情には、その可能性が充分にあるように思えたのだ。
俺は席に座ったまま、隣に立つ彼女をぐっと見上げる。そして、言った。

「えっと、その……はい」

やや躊躇ってしまったものの、きちんと肯定することが出来た。苗字さんは、その勝気な瞳をぱちくりとしばたかせた後、両目を伏して「そうなんだ……」と小さく呟いた。同情、してくれているのだろうか? 思った以上の好反応に、俺は彼女の次の言葉を期待する。彼女は伏せていた瞼を持ち上げて真っ直ぐに俺を見ると、その双眸をきゅっと細めて笑った。

「実は私も、お化けこわいんだ。一緒にがんばろ!」

ぽん、と肩に置かれた小さな掌に、俺は「あ……うん」と頷くことしか出来なかった。




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