風呂上がりに携帯電話を見遣ると、新着メールがあることを知らせるランプが点滅していた。いつもならばどうということもなく携帯電話を開いてメールを確認するのだが、今日だけはそういう訳にはいかなかった。俺は携帯電話を手に取って、机の前に正座する。そして両手で丁寧にそれを開いて、メールボックスを確認した。
そうであって欲しいような、そうであって欲しくないような、複雑な気持ちを持て余しながら開いたメールの差出人の欄には、苗字名前の名前があった。はやる気持ちを抑えながら文面を読み進み、十字キーの下を押して画面をスクロールさせてゆく。そこに書かれていたのは、昨日彼女がくれた手書きのメモの内容だった。昨日クラスのみんなに送ったらしいそれを、自分にも送ってくれたようだ。
俺はその連絡事項を読み進めながら、少しだけがっかりしている自分がいることに気付いた。お、俺はいったい何を期待していたんだろう。苗字さんはクラスの文化祭実行委員、明るくて、優しい、クラスメイト。それだけだ。
……それだけにしておくべきなのに。
『東峰は明日も部活の朝練かな?
がんばってね!』
メールの最後に添えられたたったそれだけの言葉がこんなに嬉しいのは、どうしてなのだろう。俺は正座をしたまま背中を丸めて机に額をくっつける。ひんやりとしていつつも柔らかい木の質感を感じながら、俺はぐっと目を閉じた。明るくて、優しくて、気遣いが出来て、実行委員の仕事もとてもよく頑張っていて。俺の中にある彼女のイメージを挙げれば挙げるほど、自分が小さくなってゆく。瞼の裏に浮かんだのは、自分の意見もまともに言えない俺のことを守るように現れた、小さな背中。
俺は肺の中の空気を全部吐き出してから、ゆっくりと目を開けた。苗字さんに返信しないと。画面に浮かび上がる最後の二行は、何度見ても、たとえ自分を情けなく思う気持ちで胸がいっぱいだったとしても、やっぱり嬉しかった。
俺は誰にも見られていないのをいいことにちょっぴり微笑んでから、彼女への返事に頭を悩ませた。
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