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今年も年が明けると同時に、東峰旭の携帯電話が振動する。
居間のこたつに入って年越し蕎麦をすすっていた彼は、その音に反応して視線を携帯電話に移した。
机の上に置かれた携帯電話のサブディスプレイが光って、新着メールがあることを知らせている。去年は確か、零時零分ぴったりに西谷、少し遅れてスガと田中から、新年と誕生日を祝うメールが来たっけ。一年前の記憶をぼんやりと呼び起こしながら携帯電話を開いた東峰は、右手に箸を持ったまま、左手でメールボックスを開く。
差出人の欄には、西谷の名前が表示されていた。受信時刻は、今年も零時零分ちょうど。この時間は携帯会社のサーバも混み合っているに違いない。にもかかわらず毎年日付が変わると同時にメールをくれる後輩の様子を想像して、東峰は思わずふっと表情を和らげた。
西谷らしく簡潔な文章で綴られた新年のあいさつに目を通していると、今度は続けて二通のメールが送られてきた。菅原と、田中からだった。
あ、去年と同じ順番だな。と思った東峰は、彼らからのメールを確認しながら、またもぼんやりと去年のことを思い出す。田中の次、少し時間をおいてメールを送ってきたのは、名前だったよな……。
ずっとつけっ放しになっているテレビから、煩悩を払うための鐘の音が流れてくる。しかし、ゆっくり、ゆっくりと撞かれる除夜の鐘は、彼女のことを考えながらぼーっと携帯電話の画面を見つめる東峰の意識を浄化することは出来なかった。
彼女は今年も、メールをくれるだろうか。胸の奥でむくりと頭をもたげたそのささやかな思いは、鳴り響くおだやかな鐘の音を吸収して今年最初の煩悩になって彼の心を悩ませた。
名前に、誕生日を祝って欲しいなあ。
そうしたら、きっと今年はいい一年になるに違いない。
来るかどうかもわからないメールに今年の命運を託した東峰は、ゆっくりと携帯電話を閉じて机の上に戻す。光らないサブディスプレイを視界の隅に捉えながら、少し冷めた蕎麦をゆっくりと口に運んだ。
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