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西谷たちにメールの返信をし終わる頃には、除夜の鐘を響かせていたテレビはいつの間にか新年最初のニュース番組に変わっていた。スーツを着た男性が、干支が変わったことや、各地の観光スポットの今の様子などを、淡々と紹介してゆく。
綺麗にライトアップされたスカイツリーの映像をぼんやりと眺めながら、東京遠征で見かけた鉄塔のことを漠然と思い出していると、不意に携帯電話が鳴動した。

もしかして、と思った東峰の背筋が、緊張からぴんと伸びる。こたつの中で正座をして携帯電話を開いた彼は、僅かに震える指で決定ボタンを押してメールを確認し、次の瞬間、思わずがっくりと肩を落とした。
澤村大地、というどっしりとした字面が、差出人の欄に堂々と表示されていた。

「なんだ、大地かよ……」

本人を前にしていたらとてもではないが言えない言葉が、ため息と共に東峰の口から滑り出てくる。
少しだけがっかりしながら読み進めた本文には、さっぱりとした祝いの言葉と、日が昇ったらスガや清水と一緒に初詣に行かないか、という趣旨の文章が簡潔に綴られていた。

それを見た東峰は、なんとも言えない気持ちを覚えながらゆっくりと一度、深く息を吐いた。

初詣に行こうと言い出したのが去年だったなら、神頼みなんて大地らしくないなあ、と思ったかもしれない。インハイ予選の朝も、澤村はいつもと同じように振る舞おうとしていたし、それを東峰にも強要した。
けれど、最後の春高を控えた今、そんな澤村が、初詣に行こうと言い出したのだ。

東峰は、おもむろに返信画面を呼び出して、澤村に返事を書いた。新年と誕生日を祝ってくれたことへの感謝と、初詣に参加する旨を、ゆっくりと打ち込む。
それから、春高に対する思いや、主将への労いのことばを添えようと右手の親指を動かしたのだが、なんだか、うまく言葉がまとまらなかった。止まる親指。しばしの逡巡の後、クリアボタンを数回押して、打ち込みかけた言葉を削除した。結果、澤村への返信は、ずいぶん簡潔なものになった。

送信ボタンを押して、携帯電話を机に置いた東峰は、そのまま背後に倒れるように横になった。視界いっぱいに、見慣れた天井が映り込む。くすんだ明かりを投げかける蛍光灯の向こうに、物心ついたときから自分のことを見下ろしていた小さなシミが見えた。昔はなんとなく恐かったあのシミが怖くなくなったのは、いつのことだったろう。今、胸をいっぱいにしているこの気持ちの正体も、いつかふいに分かるようになるのだろうか。

机の上に置かれた携帯電話が、またも振動する。自身を震わせて硬い机を小刻みに叩く大きな音が、東峰の鼓膜を揺らした。
大地のやつ、今日は返事早いなあ、なんて思いながらむくりと起きあがって、携帯電話を手に取った東峰。ぞんざいな手つきで開いたメールの差出人は、苗字名前だった。
驚きのあまり素っ頓狂な声をあげた彼は、慌てて姿勢を正そうとして、狭いこたつの中で足を天板にぶつけてしまった。流れるような滑舌で原稿を読み上げるアナウンサーの声に、東峰の低い呻き声が重なった。




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