(12:18)

無事に初詣を終えて神社を出る頃には、空腹を覚えるような時間になっていた。空腹というのは厄介なもので、一回意識してしまったら、よほどのことがない限り無視することはできない。会話の流れが何かを食べに行こうという方向に向いたのは、ごく自然なことだった。
それぞれの自宅に帰り着くまで腹を持たせるため、仙台駅の近くで簡単な昼食をとることにした彼ら。年中無休のファーストフード店は、さすがに元旦であってもそれなりに混雑していた。注文の品をトレイに乗せて店内を見渡した東峰は、運よく空いているボックス席を見つけ、澤村たちと一緒にそこに腰かける。

見る人によっては、立派な昼食ほどの量のあるトレイがみっつ、机の上に並ぶ。いただきますと手を合わせてから、まずはセットのポテトフライに手を伸ばそうとした矢先――、東峰の携帯電話がポケットの中で勢いよく震えだした。
ハンバーガーの包装を開けて勢いよくかぶりついたふたりを少しだけ恨めしく横目で見てから、東峰はポテトに伸ばしかけていた手をポケットに差し入れた。振動を続ける携帯電話を取り出す。

「なに、メール?」

もごもごと口を動かしながらそう尋ねてきた菅原に小さく頷いてから、東峰は携帯電話を開く。こんな時間に誰だろう。また誰かからの年賀メールだろうか。それとも、昼食を用意する時間に困った母親からの小言だろうか。東峰は無意識のうちに母親に対する返信を頭の中で組み立てながら、おもむろに画面を確認する。
しかし、彼のそんな予想に反して、そのメールの差出人は苗字名前だった。

右手でぞんざいに持っていた携帯電話を、反射的に両手で握り直す。体の大きな東峰が携帯電話の小さな画面を覗き込むように背中を丸めたのを見て、澤村と菅原は何事かと目をしばたたかせて顔を見合わせた。

店の照明の位置と、彼の筋金入りの猫背のせいで、視界が少し暗くかげる。そんな中、煌々と光るディスプレイには、味も素っ気もないデフォルトのフォントで
「仕事終わってからだから8時くらいになるんだけど、もしよかったら、ラーメン食べに行きませんか?」
という、夕食のお誘いが綴られていた。

「あ、旭?」

かくんと頭を垂れて携帯電話を見つめたままぴくりとも動かない東峰に、菅原がおずおずと声をかける。
その声に反応して顔を上げた東峰は、呆然とした表情で向かいの席に座るふたりを見つめ、それから二度ばかりまばたきをし、なにも言わないまま視線を携帯電話に戻した。

「ま、マジでどうした!?」

菅原の心配そうな声が、元旦から騒がしい店内に飲み込まれて消えてゆく。
ぼうっとしたような様子の東峰の、しかし携帯電話を握るその指だけはしたたかに動いているのを見た澤村は、白けたようにため息をひとつつく。それからドリンクのストローを咥えて、喉の渇きを潤した。




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