(17:20)
数学の問題を解くのに疲れた東峰は、気晴らしがてらロードワークに行ってくることにした。ジャージに着替えてから体の筋を伸ばし、家を出る。
今日はお正月で、学校も閉まっているため、部活はない。つまり、春高前の最後の休養日だった。
しっかり体を休めろ、とコーチは言っていたが、しかし全く何もしないというのも落ち着かない。“勉強で疲れた”というのは、体を動かしたかった彼にとって、ちょうどいいきっかけになった。
もうすっかり足が覚えてしまった道を、軽く流すように走る。冬至を過ぎたばかりでまだまだ日の入りは早く、辺りは既に薄暗い。そんな中、帰省をしているのか、明かりが消えたままの家がちらほらと見え、かと思えば、子どもや孫が帰って来ているのか、家の前の路肩に大きな車が止まっている家もある。
その、賑やかな明かりの灯る窓を横目に眺めながら、東峰は滞りなく足を動かした。
例年ならば、年末年始は部活もなく、祖父母の家でまったりとした正月休みを過ごすのだが、今年はそういうわけにはいかなかった。春高のために年末年始の休みを大幅に減らして、練習を増やしたのだ。
大晦日の日に、挨拶にだけ訪れた両親の実家。東峰が全国大会に出場することを心から喜んでくれた祖父母の顔を思い出すと、自然と足に力がこもった。
勝ち進めば、試合がテレビで中継される。もちろん、勝ちたい理由はそれだけではない。しかし、澤村たちと書いた絵馬と同じくらい、「テレビの前で待ってるからね」と冗談めかして言っていた祖母のそのことばもまた、東峰を支える力になった。いや、祖母だけではない、クラスメイトや、烏野町内会の人たち、毎朝挨拶をする近所のおばちゃんや、それから名前も、テレビ楽しみにしてるよ、と笑ってくれた。
次に祖父母の元を訪れる時には、優勝を持って帰れるといいなあ。少し気弱にそう思った彼だったが、しかしすぐに頭を横に振って、その気弱な感情をかき消した。
持って帰れるといい、ではない。絶対に持って帰るのだ。
日が落ちて、ますます冷え込みが厳しくなった住宅地を、白い息を吐きながら黙々と走る。東峰は、日向や影山のような練習狂ではない。しかし今日だけは、明日の練習が今から待ち遠しくて仕方がなかった。
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