(20:37)

とろりと濁った象牙色のスープから、淡い黄色の麺をそっと掬い上げる。スープをまとって金色に輝くそれに、彼女は息を吹きかけて、少し冷ます。それからどんぶりに顔を少しばかり近づけて、細長くコシのある麺をちゅるちゅるとすすった。
彼女の少し上気した頬が、うつわから立ち上る湯気の向こうでじわりと霞む。咀嚼のために滞りなく動くすっきりとしたあごのライン、ラーメンのおいしさに舌鼓を打つように僅かに持ち上がった口角と、少し湿ったように黒く輝く長い睫毛。

「おいしいね」

彼女の伏した瞳が不意に持ち上がり、東峰を捉える。そして、にこりとわらうと、彼女はそう言った。幸せそうに細められた眦が、湯気の向こうで、またも霞む。

それに東峰は「うん、うまいな」と返して、釣られるように笑った。食欲が満たされてゆく感覚や、名前と一緒に食事をしているのだという多幸感が、店内のあたたかな空気と一緒になって東峰を包んでゆく。
食事はひとりでするよりも、誰かと共にした方が何倍もおいしい。そんな言葉を思い出しながら、東峰は勢いよくラーメンをすすった。濃いとんこつの味が一気に舌の上で広がって、同時にその濃厚なかおりが鼻腔の方へ駆け上がってゆく。コシのつよい麺を飲み下した彼は、口内にたまった熱を吐き出すように、はあ、と小さく息をついた。

それを見ていたらしい名前が、くすりと笑って、こう言った。

「旭くんって、本当においしそうに食べるよね」

「え、そうかな」と少し面食らったように返した東峰に、彼女は「そうだよ」と大きく頷いてから、続ける。

「旭くんとごはん食べると、なんだかいつもより美味しいもん」

少しだけ声を潜めて、照れたように笑う彼女。
東峰は、彼女のその笑みを見ながら、その言葉を頭の中で反芻した。自分と食事をすると、いつもよりも美味しく感じるのだと言っていた彼女。それは、つい先程、自分の考えていたことと全く同じではないか。
そのことに気付いた東峰は、自身の体温がかあっと上がってゆくのを感じた。その理由の一端は、あたたかいものを食べていることにあるかもしれない。けれど、もうひとつの理由の方が、彼にとっては重要だった。

東峰は、湯気の向こうに霞む彼女の笑みを見ていられなくて、思わずどんぶりに視線を落としてしまう。とろりと白く濁るスープに、彩をそえるねぎと紅ショウガ。その鮮やかな色彩を眺めながら、東峰はその体に似つかわしくない小さな声でこう言った。

「俺も、同じこと考えてたよ」




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