(21:22)
ラーメン屋を後にしたふたりは、他愛もない会話をしながら、帰路についていた。
今の彼らにとって、会話の内容というのは、さほど重要ではなかった。ただ、彼女が今日あった出来事を話し、それに彼が頷く。それから、今度は彼が今日あった出来事を話し、それを聞いた彼女が少し笑う。そんなことを繰り返しながら歩いてゆく夜道は、とても凡庸で、だが同時に、宮城の冬とは思えないくらいに暖かだった。
そんな中で、東峰の口にした「澤村たちと、初詣に行ってきてさあ、」という言葉に、名前は一際大きな反応を示した。
「初詣かあ! いいなー」
今日一日を、新しい職場で過ごした彼女。当然、今年はまだ初詣には行けていない。
人々で賑わっていた石畳の参道や、色とりどりの社殿、風に吹かれてからからと鳴っていたたくさんの絵馬など、東峰が語る初詣の様子を聞きながら、彼女は羨ましそうな声をもらす。
それを聞きながら、東峰はふと、あることを思い出した。
……そうだ、この道の向こうに、
「あのさ名前、もしよかったらなんだけどさ、」
滞りなく動かしていた足をはたと止めた東峰が、ぽつりとそう言った。彼につられるように足を止めた名前は、くるりと彼を振り返る。そして、「ん、なに?」と返して、僅かに首を傾けた。
「初詣、今から行かないか?」
この道の向こうには、東峰が毎年初詣をしてきた小さな神社があった。
澤村たちと詣でた八幡神社のようにきらびやかではないけれど、こぢんまりとしていて親しみの感じられる、素朴な神社。東峰はその素朴さを、結構気に入っていた。
「この先に、小さいんだけど神社があるんだ。毎年そこに初詣行ってるんだけど、今年は大地たちと八幡神社に行ったから……まだ、そこには行ってなくてさ、」
やっぱり、毎年やってきたことをやらないと、年がはじまったような気にならない、ような気がする。それに何より、自分のことをよりたくさん彼女に知ってもらいたかった。自分が今までどうやって生きてきたのかを、些末なことでもいいから、ひとつでも多く。
「ほんと? 行きたい。行こうよ!」
そんな東峰の欲望を知ってか知らずか、名前はそう声を弾ませる。そして、ヒールを高らかに鳴らして、東峰の隣に並んだ。
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