(21:34)

表通りからさしてくる明かりが、質素な造りの神社をぼんやりと照らしだす。灰黄緑色の狛犬、どっしりとした石鳥居、掃き清められた石畳の参道、そして、味のあるくすんだ渋色の木肌をした社殿。
大きな八幡神社にみんなでお参りに行くのは、気持ちを新たにするのにはちょうどいい。けれど、やっぱり通い慣れた神社で手を合わせる方が、自分には合っているのかもしれない。東峰はそんなことを思いながら、恭しく二度、頭を下げる。
その隣にいる名前も、東峰とタイミングを合わせるように二拝し、それからその柔らかそうな手を二回、音をたてて合わせた。

ふたり以外に誰もいない神社に、綺麗にそろった柏手が響く。
東峰は節くれだった手を合わせたまま、ゆっくりと目を閉じた。そして、神様に何をお願いしようかと思考を巡らせる。

そんな彼の脳裏をよぎったのは、今からちょうど一年前の自身の姿だった。

去年、ここで神様に何を願ったかを、東峰は綺麗さっぱり忘れてしまっていた。
正確には、その時自分の胸を悩ませていたあれやこれやを全部なんとかしてもらおうと、片っ端からお願いしたため、具体的に何を願ったかを思い出せなくなってしまっていた、と言った方がよいだろう。
なんとも情けない自分の在り様に、思わずきゅっと背中が丸くなった。合わせた人差指の谷間に鼻筋をうずめるようにして、浅い呼吸を繰り返す。いたたまれなくなった東峰は、意識の矛先をどこか別の場所に向けるべく、薄目を開ける。そして、ほとんど反射的に、隣にいる女の子をこっそりと見遣った。

綺麗な黒い髪の向こうで、そっと閉じられている瞼。それから、合わせられた手の、ぴん、と伸びた指先。その切りそろえられた爪は柔らかな桜色をしており、一足早く春を迎えているようにも見える。
静かに祈りをささげるその姿は、波立とうとしていた彼の自意識を、不思議なほど急速に落ち着けた。

東峰は再び、目を閉じる。
今度は、何を願おうかと心を迷わせることはなかった。

自分のことは、大地たちとの初詣でもうお願いしている。欲張って何度も自分のことを願っては、神様に呆れられてしまうかもしれないから。
そう思った東峰は、ごく心静かに、隣にいる女の子の幸せを祈ることにしたのだった。

年のはじめの一日を、自分の18歳の誕生日を、こんなにも鮮やかに彩ってくれた彼女の幸せを祈るのはとても自然なことだと、東峰には思われた。
どうか、今年も一年間、彼女が笑顔で過ごせますように。そう心の中でお願いしてから、深く深く頭を下げた。




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