どんなに胡散臭そうな視線を向けてもめげることなく坂ノ下商店に現れた天使の魅力を力説する田中に根負けした縁下力は、肉まんを奢ってもらうという条件付きで、田中と共に坂ノ下商店に赴くことになった。
縁下自身は、坂ノ下の天使とやらに興味があったわけではない。ただ、田中の後先考えない行動のせいでバレー部の名前に瑕がつくことを恐れたのだ。田中は清水先輩に初めて話しかけるまで結構かかっていた初期オクテ型の男だし、直情的ではあるけれど結局まずまずの常識人だから、大丈夫だとは思うけれど、念のため。

そんなことを思いながら、坂ノ下の扉を開ける田中の後ろからカウンターに視線を遣った。

見慣れた坊主頭の向こうに見えたのは、痛んだ金髪をオールバックよろしくまとめてサービス業従事者とは思えない態度で新聞を広げている男の姿だった。

「入るならさっさと入れ!風が入るだろうが!」

部活で酷使された体が、更に重くなった。
叱責に背中を押されて、縁下と田中はおずおずと店の中に足を進める。つい先程まで騒がしい程饒舌であった田中が黙りこくっているのを気にかけながら、縁下が引き戸を閉める。硝子戸がサッシを滑る軽快な音を背景に、悟りきったような寂しい笑みを浮かべた田中がこちらを振り返った。

「……肉まん、奢るよ」

縁下はそう言って苦笑を浮かべながら、田中の肩を叩いた。

その時だった。
店の奥から、坂ノ下には不似合いな明るく明朗な声が響いた。

「ケイちゃん、お客様にそんなこと言っちゃダメでしょー!?」

ケイちゃん、と呼ばれた金髪の店員の顔が僅かに歪む。
縁下が呆気に取られながら声のした方を振り向くと、そこには商品棚の奥からひょこりと顔を出したひとりの女の子の姿があった。その視線が縁下とぶつかる。

「いらっしゃいませ!」

にこり、と効果音が付きそうなくらい鮮やかに笑った彼女に思わず目を奪われた縁下の隣で、田中の背中がぎりっと緊張する。
縁下はそんな田中に心の中で苦笑を漏らしながら、しかし、彼の緊張を完全には笑えないでいた。なるほど、確かに。




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