「ピーターはなにか買いたいものはある?」

「僕は無いよ。ナマエは?」

「私もどうしても欲しいものはないの」



ショッピングモールについて、休憩して、甘いものを食べて。さあこれから何をしようかと二人で一つのパンフレットを覗き込む。

お互い買い物は無いのだがナマエにとっては初めてのショッピングモールだ。買うというよりも、見たいという気持ちの方が強い。



「うーん、このお店どんなお店なんだろう、気になるなぁ…」

「じゃあ今日はナマエが気になるところに行ってみようか」

「えっ、いいの?」

「うん、僕は何度もきてるから」



そう言うとナマエはパンフレットを持ったまま、いつもみたいに嬉しそうな笑みを浮かべる。



「あ、あー、えと。じゃあ早速行こうか」



まるで誤魔化すように座っていたベンチから立ち上がる。

ナマエの笑顔を正面から受け止めるとどうにも、ぼーっと見つめてしまうというか、顔がにやけるというか、あるいは両方ともいえる。



「そのお店なら僕、場所わかるから」

「じゃあピーターについて行くねっ」



また彼女と手を繋げたら嬉しいけれど。流石にもう手を取る勇気はない。バックパックを背負い直すと目的のお店に向かって歩き出す。

隣を歩くナマエをチラリと盗み見する。キョロキョロ顔を動かしながら、物珍しそうにモールを見てる。

その様子がなんだか可愛くて、お店に連れて行ったら今度はどんな顔をするんだろう、なんて考えた。



・・・



「ピーター、見てこれ!すごく可愛い!」



石のついた髪留めをこめかみ辺りに当て、ピーターへと振り返る。きらきらした石に負けず劣らず彼女がきらきら見えてしまう。

女性客の多いブティックでオロオロしてた事など頭から飛んでしまうほどだ。



「ほんとだ、いいね。ナマエはそういうのが好きなの?」

「どちらかといえばそうかな?あまりギラギラしてるのは苦手なんだけどね」



そう言ってナマエは手に持っていた髪留めを棚に戻す。

ピーターも横に並んで品物を見てみたが正直女性もののヘアアクセサリーなど、どれを見てもピンとこない。一つ手に取ってみたがよく分からずすぐ棚に戻した。

そんなピーターの様子を見ていたナマエはクスクスと笑った。



「難しい?」

「難しいっていうか、どういうデザインが良いのかよく分からないんだ」

「そうね、男の子だもんね。付けないものを選ぶのって難しく感じるよね」

「ごめん…」

「ふふ、謝らなくてもいいのに。でもね選ぶのってそんなに大変なことじゃないの」

「そうかな」

「好きな子の事をちゃんと考えて選んであげれば、それでいいの。その子の好みとか好きな色とか」



そうやって考えて選んでくれた贈り物って、なんやかんや言いながら女の子は嬉しいものなんだから。

笑みを浮かべてそう言ったナマエの言葉を飲み込むように「そっか」と呟くと、ピーターは改めて無数に置かれてるヘアアクセサリーを見た。



「いつかピーターにプレゼントを贈りたい相手が出来たら相談して?」

「え…」

「私、いつでも相談に乗るし、誰よりも応援するからっ」

「っ…そっか、…えと、ありがと…」



そう言うと「さあ、次のお店行きましょ!」と言って笑顔で歩き出してしまうナマエ。ピーターはしばらく彼女の背中を見つめたあと、視線を落とした。

いつもの調子なら「そんな相手いないよ!」だとか「当分はそういう事はなさそう」なんて言うことができたのに。

応援するからっ

そう言って笑ったナマエに、言葉が詰まったのだ。言い表せない。なんで自分がこんな気待ちになるのかピーターでさえわからない。ただ胸の内がざわついて、ざわつき過ぎて。

少しだけ、痛かったんだ。



「ピーター?」



ナマエが振り返って不思議そうにこちらを見ている。ピーターは「ごめん、何でもないよ」というと再びナマエの隣に並んだ。

胸が痛むのは今は忘れる。「次はどこがいいかな」と言って悩むナマエと楽しく過ごしていたい。



「どこでも付き合うよ」

「ふふ、ピーターは優しいね」

「えっ、そうかな?」

「私ばっかり楽しむのは悪いから、次はピーターも楽しめるところにしよっか」

「僕の事は気にしなくてもいいのに」

「ピーターも楽しんでくれないと、私が嫌なだけよ」



何度も来てるから大丈夫だよ
今日はナマエの見たいものを見てよ

ピーターの頭の中に色々な言葉が浮かんだが、どれも口にはしなかった。それよりも早く言いたくなった言葉があった。



「ずっと楽しんでるよ」

「え?」

「今日ナマエが学校に迎えに来てくれた時からずっと楽しいんだ。だから、大丈夫」



一緒にいればそれだけで楽しいから。

ピーターの言葉にナマエは目を大きく開かせた。それから戸惑ったようにフラフラ視線を彷徨わせて、最後は手に持っていたパンフレットで顔を隠してしまった。



「ナマエ?どうかした?」

「な、なんでもない…!」

「気分悪い?どこかで休もうか」

「全然、大丈夫…っ」

「でも、」

「あっ!私ゲームセンター行きたい!そうっ、そうしましょ!」



スタスタと歩き出してしまうナマエ。「ねえナマエ、場所わかってる!?」と聞けば「わからない!」と清々しい返事。わからないのにどこに行くんだ、という疑問は飲み込んだ。

そんなに焦って行く必要もないし、ゲームセンターくらい案内するのに、とは思うが。パンフレットで顔を隠し足早に歩くナマエはなんだか面白くて。追いかけながらも、しばらく見守ることにした。

しばらくしてナマエが「場所わからないわ!」と言ってきて、ピーターは笑ってしまうことになるのだが。