「…やあ、デルマーさん」
「おお、パーカーじゃねえか」
昨日の夜二人が寝静まってから散々カレンと今日のデートプランを打ち合わせをしたと言うのに何故ここに来ることになってしまったのか。本当ならカレンが探してくれた公園近くのカフェに行く予定だったのに。
「いつものサンドイッチ二つ貰える?あと、飲み物も」
「二つ?お前そんなに食うのか、」
「わあ…ここが、話してくれたサンドイッチのお店なんですね。こんにちは」
ピーターの後ろからナマエが顔を覗かせると、デルマーは目を大きく見開かせ「おいマジかよ」と呟くと大袈裟に両手で頭を抱えてみせた。
「ピーター!お前いつからこんな綺麗な人とデート出来るほど生意気になった!?」
「っ、ちが!違うよデルマーさん!デートとか全然そういうんじゃないから!」
「初めまして、あのナマエと言います」
ぺこりと頭を下げたナマエに、デルマーの顔は明らかにニヤついている。その様を見ていたピーターは「あー、もう!」と一声上げたあと大きく溜息をついた。
そうだ本当ならカフェに連れて行く予定だったのにナマエが「いつもピーター君が食べてるものを食べてみたいです」なんてお願いしてくるものだから予定を変更せざるを得なかったのだ。
あんな風にお願いされたら断れない。あんな「ダメですか?」なんて首を傾げられたら。
「もういいからデルマーさん!早く!」
ニヤつくデルマーの視線を遮るように二人のあいだに立つとデルマーは「ちっ」と舌打ちを一つ。そのままぶつぶつ文句を言いながらサンドイッチを用意し始めたのでピーターは飲み物に手を伸ばした。
「ナマエさん、何にしますか?」
「うーん迷いますね、ピーター君は何にします?」
「僕はオレンジ、…あー、アセロラもいいな」
「迷ってるんですね?じゃあ私がアセロラにするので、あとで半分こしましょう?」
「…い、いいね、うん、名案」
歯切れ悪く返事をするピーターの横で、にこにこ微笑むとナマエはボトルをとりデルマーの元へ持って行ってしまう。
半分こ。
何気なくナマエは言うが、彼女にとって普通なんだろうか。それとも自分が間接キスだのなんだのと意識しすぎてるだけだろうか。ずっと心臓が忙しない。自分より大人の彼女を意識しない訳がない。
「ほらよ、出来たぞ」
ニヤニヤしたデルマーにピーターはお金を渡す。今日何か食べてきなさいとメイが渡してくれたお金だ。本来行く予定だった場所の半分以下の金額で済んでしまった。この後、気が向いたらジェラートを買ってもいいかもしれない、と思いながら会計を済ませた。
「あの私もお金出しますよ?」
「大丈夫ですよ、元々そのつもりで預かってましたし」
「そうでしたか…」
ピーターの言葉に「うーん」と考え込むように顔をうつむかせた、かと思ったらすぐにパッと顔を上げたナマエ。にこにこ笑みを浮かべると「じゃあ次ここにきた時は私が出しますね」と言う彼女の言葉に反応したのはデルマーだった。
「次ここに、ってどういう事だ?お嬢さんあんた旅行者じゃねえのか?」
「違いますよ、私これからピーター君の家で一緒に住まわせていただくんです」
「なにっ!?」
「わー!ナマエさんそろそろ行こ、そうしよ!行きましょう!」
ガタンと音を立ててカウンターを叩いたデルマーがこれ以上何か言い出す前にナマエの手を引く。「どう言うことだ!」と声が聞こえてくるがピーターは聞こえないフリを決め込んだ。
「じゃあデルマーさん、ありがとう!また来るから!」
「おい!パーカー!」
「お邪魔しました…!」
ピーターに手を引かれながらも軽く会釈をすると二人は外に出た。
「あの、ピーター君、言ったらダメでしたか?」
「そうじゃなくて、そうじゃないんですけど、」
「もし言わないで欲しいとか、そういう気持ちがあるなら私」
「全然!そういうことじゃないよ!」
立ち止まって、振り返ればナマエの困った顔と目が合ってピーターは慌てて顔を伏せた。
「……あ、っと、ごめんなさい、そういうことじゃないんです……それから、腕もごめんなさい」
掴んでいた腕を離す。お互い黙ったままなんとも言えない空気が漂った。
うまくいかない。恥ずかしさとか、焦りが混ざってどうにも上手い反応が返せない。カレンと打ち合わせしたプランも台無しだ。こんなんじゃ彼女が困ってしまう。
ピーターが自分自身に溜息をつきそうになったとき、ナマエの手がピーターの手にふれた。
「ピーター君、せっかくだから出来たてを食べませんか?」
「えっ…」
「近くに公園とかあります?」
「それならこの道を曲がった先に…」
「じゃあ行きましょう!」
「うわっ!?」
ピーターの手を引いて歩き出したナマエの突然の行動に驚いて声をあげる。握られた手を見て、ナマエを見て、何度か繰り返したが彼女はどうやら離す気はないようで「こっちですか?」と楽しそう話しながらずんずん歩いていく。
「あの、そこを曲がって…!」
「はい!あ、芝生が見えてきましたね!」
なんだかんだ手を繋いだまま目的の公園までたどり着くとナマエは空いてるベンチを見つけ「あそこにしましょう」と言ってまたピーターの手を引いていく。
彼女の後ろ姿がなんだか眩しかった。自分よりも大人で、いつも笑顔で、こんな風に力強い時もあって。ナマエを見つめながらピーターはぼんやりと考えた。
まるで太陽みたいな人だな、と。