友達の悟天にはお兄ちゃんが二人いる。あいつが遊ぶ度に「昨日兄ちゃんが!」とか「兄ちゃんたちがねー」とか楽しそうに話しをするもんだから、そりゃあオレだって羨ましく思っちゃうよ。ママにねだってみたけど、うーんお兄ちゃんはちょっと無理かなーって言われちゃった。ま、分かってて聞いたんだけどさ。
「なぁ悟天。おまえのお兄ちゃん一人くれよ」
「えーだめだよ。二人ともボクの兄ちゃんだもん」
「だよなー」
悟天の二人のお兄ちゃんは双子で、どちらも個性的な人たちだ。一人は真面目で優しくて正義感が強くて、でも少しズレている強くてかっこいい悟飯さん。お兄ちゃんにするなら悟飯さんみたいな人がいいなーってずっと思ってた。だけど最近は悟天のもう一人のお兄ちゃんのほうがオレは気になっている。まるで人形みたいに表情に変化がないから最初は怖かったけど、今じゃもうすっかり慣れた。なんで気になっているかと言うと、あの人は悟天と同じようにオレを見てくれるから。悟天に対するようにオレにも構ってくれるから。だから時々、お兄ちゃんって呼びたくなる。
いいなぁ。オレもお兄ちゃんが欲しい。
今日は悟天の家に泊まりにきている。ボクの兄ちゃんだからねと念を押してくる悟天と二人でベッドでごろごろしながら夜更かししていると、ドアの開く音とともに月明かりにしか照らされていなかった部屋に光が差し込んできた。オレたちは慌てて頭まですっぽりとタオルケットを被ったけど、この家でこんな誤魔化しが効くような人はいないことを知っている。
「まだ起きているのか」
「わわっ! 今寝るとこだよ!」
部屋に顔を覗かせたのはついさっきまで頭に思い浮かべていたその人だった。ドアが開くまで気が付かなかったのは、気を扱うのがすごく上手い人だからだ。普段からこの人からは気をまったく感じない。どんな状況でも気を乱すことがないからセンスがいいんだろうってパパは言ってた。
二人揃ってタオルケットから顔を出すと、悟天のお兄ちゃんはオレたちが寝転がるベッドにやってきて乱れたタオルケットを綺麗に掛け直してくれる。こういうところが、あ、お兄ちゃんだって思う。
「兄ちゃんおやすみ」
「おやすみ悟天」
ちらりと隣の悟天を見れば寝かしつけるように頭を撫でられていて、さっきまでの元気が嘘のように目がとろんとしている。いいなぁ。オレもお兄ちゃんに頭を撫でて欲しい。オレも、オレも悟天みたいに……お兄ちゃんが欲しい!
「おやすみっ、お、お兄ちゃん!」
今のは誰の声だ?
頭の中が真っ白になったオレは、ちょっと驚いたように目を見開かせるお兄ちゃんの顔にじわじわと恥ずかしくなってきて、綺麗にしてくれたタオルケットを乱暴に被った。嘘だろオレ。まさか声に出して言っちゃったのか。あぁああだめだ、絶対なに言ってるんだこいつって目で見られるよっ。顔がすごく熱い。やめろ悟天、蹴ってくるな。オレだってわざと言ったわけじゃないんだよ。
「トランクス」
名前を呼ばれておずおずと顔を出すと、さっきの悟天と同じように温かい手が優しくオレの頭を撫でた。顔はまだ熱いけど、なんだか今度は胸がじんわりと暖かくなっていくような気がした。お兄ちゃんはずるいと思う。こうやって悟天と同じようにオレを構うから、オレは欲しくなっちゃうんだ。無理だと分かっていても、欲しくなっちゃうんだよ。あーあ、ほんと悟天が羨ましい。
「おやすみ、トランクス」
それはまるで魔法の言葉のようで、だんだんと眠くなってくる。待って。まだ、寝たくないよ。もう少しだけこうしていたいのに瞼が言うことを聞いてくれない。次に起きた時、もう一度お兄ちゃんって呼んだらどんな顔してくれるかな。悟天は怒るだろうけど呼ぶだけなら別にいいよな。そうだ。ドラゴンボールにお願いしたらどうなるかな。
ねぇ。オレのお兄ちゃんになってよ、って。